@首絞め注意
@十神くんが可哀相
超高校級の御曹司。
頭脳、容姿、運動能力と、あらゆる面でエリート中のエリートである。
彼に敗北はない。
彼に不可能はない。
何人にも侵すことのできない孤高の存在。
誰もが彼をそう称し、彼自身もそう自覚していた。
「なぁ、お前超エリートなんだろう?」
答える代わりに十神が漏らしたのは、掠れた呻き。
彼の喉を締め上げるは、楽しそうな声と不釣り合いな無表情で、じっと十神を見つめていた。
「あれ? こんぐらい抜けられんじゃないのかな? あれ? 遠慮しないでくれよ」
息苦しさと憤りと色々なものが十神の中で混ざり合っていた。顔が膨れて弾けそうな妙な感覚がする。
は“異常”だ。恐らく誰の目から彼を見ても、反論は出ないほどに。
十神には、彼から首を絞められる心当たりも記憶も無い。が私怨や感情に任せて当たってくる人間ではないことも理解している。
は、呼吸するかのように自然に十神の首を絞めた。
じわりじわりと、脳を圧迫するような酸欠の苦しみに、十神はもがくことさえ許されない。
まさか俺を殺すつもりなのか? どうして? 何故? 俺は狩られる側だというのか? 何故だ? なぜだなぜだなぜだ。、お前はなぜ俺のくびをつかんだ。はなせ。はなせ。離せ。はなせはなせ離せはなせ離せはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせ離せ離せはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせはなせ はな せはなせはなせ離せはなせはなせ は な せ はな せ は なせ はなせはなせ はなせは なせはなせ はな せはなせはなせはなせはなせはなせ はなせはなせはなせはなせはなせはなせ は な せ は な せ は なせ は なせ は な せ
はな して く れ
不意に気管が開けた。
点滅する視界。本能が理性より先に働く。身体中が酸素を求めた。
首を支える、の手は緩い。
の手が首から離れると同時に、十神はその場に倒れ込んだ。地べたに這いつくばりながら、汗ばんだ手で、汗ばんだ喉を押さえた。
咳き込み、むせながら呼吸を繰り返す。目一杯に肺が膨らんだ。潰れかけていた喉は本来の形を取り戻していく。酸素が少しずつ身体を循環し、意識と呼ばれるものが近付いてきた。
十神のそんな姿を、はじっと見下ろしていた。
陸に上げられた魚のように無様な十神の姿を、は何も言わずに見つめていた。
に見つめられていることを認識できる程に復活した十神の思考は、先までとは別の感情によって荒れ始める。
「貴様……、どういうつもりだ!」
まだ痛む喉から声を絞り出し、十神はを見上げた。
は不思議そうに目を丸めた。それから、さも当然のように淡々と十神に返答する。
「お前死なないんだろ? 良いじゃんけ、ちょっとぐれぇ」
何を言っているのか、よく判らなかった。
いつの間にか手にしていたデジタルカメラをいじるの姿は、先まで人の首を絞めていたとは思えないほどの平静さだった。
カチカチとカメラを見ながらは楽しそうに笑っている。
「すげぇなぁ十神、誰もお前がこんな顔出来るとは思わねえだろうなぁ」
「何、だと……」
背筋を氷で撫でられたような、不快な冷たさが、十神の体を走る。
首を解放される前に、視界を刺激した光。
あれは、まさか。
「宝物にしとくわー」
撮られた。
撮られた。
撮られてしまった。
「貴様……っ!」
「有名人なんだから写真撮られるぐらい慣れてるでしょ! そのうちの一枚だって! アポ無しだけど大目に見てよねー」
十神は声を詰まらせた。
根本的な何かが、おかしい。
はずれている。
十神の首を容赦なく絞めたのも、決して殺すつもりだったからではない。
この閉鎖されたコロシアイ学園生活で“俺は殺されない”という意志を含んだ「俺は死なん」という十神の発言を、は真に受け過ぎていたのである。
親しい人間に挨拶するのと同等、もしくはそれより気軽に、は十神の首に手を掛けた。
あまりに純粋な悪意に、十神の本能は気づくことができなかった。
は自分の悪意を自覚できていない。だからこそ誰にも悟られず、怪しまれず、あっさりと行為をやってのける。
あの殺人鬼も異質だが、の異質さは、それを凌駕していた。
(察知できないぶん、質が悪い)
そんなの悪意を過敏に察し、はねのけるの凄さを、十神は今更ながら実感していた。
「……覚悟しておけよ」
「十神の名にかけてオレを潰しちゃう? 此処を出れたらの話だけどみたいな?」
カメラをジャケットのポケットにしまい、は笑った。
「いやぁ、その頃には十神が手を下すまでもなくオレ死んじゃってるんじゃない?」
また体が震えた。
「じゃあね!! 喉お大事に!」
の意思は、悟れない。
好意も、悪意も、本意も。
きっと――殺意も。
にとって、殺しなど大した意味を持たないのだろう。
自分がしたいと思えば、何でもするに違いない。
いつ自分にまたあのような矛先が向けられるのかと思うと、十神の心臓は不規則かつ荒々しい運動を繰り返した。
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