「とら、ない、で」

 僕から、とらないで。
 もう、なにも、奪わないで。

「母様をとらないで! 僕の母様、母様を母様をとらないで! 人間、ニンゲンは何で、何で僕から奪うの!? 奪う、奪われる、奪わないで!! いや、嫌だ、イヤ嫌イヤいや嫌嫌イヤいやいや嫌!!」

 貴方が話せないことは知っている。
 けれども、僕は叫ばずにはいられなかった。

「い、や……! も、イヤ……嫌だ……ひとり、嫌……僕だけ、僕ひとり、嫌だ……イヤ、死にたい……死にたい死にたい死ねない死なせてよ……」

 縋る僕を、じっと見たまま何も言わない貴方。
 少しも変わらない表情。
 ぴくりと動いたのは、剣を持つその手。
 斬られるのだろうかと思ったら、ただ剣を地面へ突き刺しただけだった。

……泣くな』

 母様の声に、僕は慌てて涙を拭った。
 いつの間に泣いていたんだろう?
 情けなくて俯いた僕の頭に、何かが触れた。

「カイ、ム、様」

 貴方は何も言えないから、ただ僕の頭を撫でるだけで。

「何で、ですか。何で、そんな、貴方は……」

 答えが返ってくることは無い。
 頭を撫で続けるその手は、血に塗れてきたとは思えない程に優しかった。

「カイム、さま……」

 止めて、やめて。
 僕には、母様以外に必要なものなど、ありはしないのに。

「う、っ……何で……」

 認めたくない。

「なんで、なの……」

 母様以外、いらないの。
 いらない、はずなのに。

「なんで、僕……ぼく……もう……っ」

 貴方のことを、こんなにも愛しく想ってしまっているの――?



 母様の呼び声がする。
 優しくてあたたかな、声。
 きっと僕の浅い心なんて、母様にはお見通しなのだろう。
 こんなにも誰かを憎み、その裏で同じくらいに愛するのは初めてだ。
 よく判らないこの感情を説明するには、まだ僕は幼い……。

「……ごめんなさい。母様、カイム様……」

 頽れそうだった僕の心。
 今暫くは、きっと大丈夫?
 愛する貴方たちの為なら、死んでも構わない。
 何を引き替えようとも。
 何を殺めようとも。
 どんな罪を犯そうとも――。

 僕が貴方たちを愛する限り、僕はひとりではないのだから

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