は良く判らない子だ。基本的に良心的で、根は良い子なのだと思う。
しかし……予兆の無い行動。曖昧だったり辛辣だったり定まらない言葉。不意に垣間見せる本性。
そして、彼の裏にずっとついて回る影が、俺にはしっかり見えていた。
それは悲愴か、あるいは憎悪か。
の心を蝕むほどに重たく濁っているようであった。
(苦手かもしれない)
俺はのような人間――実際竜だが、人間と言った方がしっくりくる――にどう接したら良いのか判らなかった。
やはり竜なだけあって人間を好まないようだし、しかし竜でありながら自分を必要以上に卑下する。
誇りなんて、彼には関係無いのだろう。自覚も無いのかもしれない。
(……良い子ちゃんだよな)
は敵を作らないようにと必死で、しかし馴れ合う事を嫌っている。
それは本人も理解しているらしいなと、何となく悟れた。
彼の行動には、常に迷いが見える。
俺が言えた義理じゃあないんだろうが。
「」
呼び掛けると、は気まずそうに「何でしょうか」と返して来た。どうやらの方も俺が苦手らしい。
露骨に嫌そうな顔をされたものだから、些か傷付いた。
「……そんなに俺が嫌いか?」
「嫌いではないですけど」
「ならそんな顔しなくたって良いだろ?」
は視線を泳がせたまま何も言わない。言葉に迷っているようだ。
「ええと、何か御用ですか?」
「いや特に」
しまった。はこういうのが一番好きじゃないんだった。
が眉を顰めたのを見て、俺は慌てて言い繕う。
「その、折角なんだしもっと仲良くいこうぜというか、俺は君と仲良くしたいんだけどな……ってさ」
ベタベタな繕いだったが、は納得したらしく眉間の皺が消えた。
「……あの、ユーリック様はどうして僕に気を遣って下さるんですか?」
「あ? いや、ほら、仲良くしたいから」
「本当に?」
こんな綺麗な目で聞かれると、適当に繕った言葉で返すのは気が引けてくる。
俺は意を決した。
「のことが苦手だからかな」
きょとん顔のなんて、なかなか見れるものじゃない。端整な容姿は、どんな表情をしても絵になる。
「苦手だからこそ、理解したい。苦手なものは少ない方が生きやすいだろ?」
「……なるほど……」
どうやら俺の答えに満足してくれたようで、は何度も頷いた。
「苦手なものが多いと息苦しいですものね。人に与えられた時間は短いですし、出来る限り楽しんだ方が確かに良いです」
「そう。それに触れて探ってみないと、判らない事もあるだろ」
「……人の好奇心の強さには驚かされます」
は、穏やかに目を細めた。
「強すぎる好奇は身を滅ぼすことも、貴方は知っておいでのようですし」
初めて、かもしれないな。
「僕も、貴方のことをもっと知りたくなりました」
こんなに優しい笑顔を見せてくれたのは。
不覚にもどきりとした。
仮面があって助かった、今の俺はきっと間抜けな顔になっているだろうから。
「嬉しい事言ってくれるね」
「嬉しいのですか?」
「嫌われてるもんだとばかり思ったら、そうでもなかったからな」
はくすくすと小さな笑い声を立てた。
「素っ気無さすぎましたかね、僕。誤解させてしまってすみませんでした」
何時もに付き纏う影は形を潜めたようだ。
悪戯っぽい声音に、思わず頬が緩む。
(何時も、こうだったら……、いや、時々で良いか)
こんなに穏やかでくすぐったりやり取りは、重ねる度に情が増すだろう。
それでは、“あとで”別れ辛くなる。
「も結構本音は隠すタイプなんだなぁ」
「探り合いもお好きでしょう?」
「まあな」
既に簡単に離れられるような軽い想いではないことを、俺は知らん顔で流していこうと決めていた。
「でももうちょっと素直になってくれれば俺としては更に嬉しいね」
「貴方の努力次第ですよ」
深い笑顔は、泣顔にも似ているんだと、俺はを見ていて初めて知った。
出来ることなら、君の笑顔をずっと見守っていたい
――脳裏に浮かぶ、赤い紅い花――
けれど俺は、もうすぐ君を泣かせてしまうんだろうな……
(Title by 7)
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