『母様、雪が降ってます』
『見れば判る』

 氷竜である僕には、雪の冷たさが心地良かった。
 母様の短い言葉に込められた温かな情を、僕はゆっくり受け止めていた。
 甘えるように身を寄せれば、小さく笑って母様もそれに応じてくれる。
 細やかだけど、確かな幸せがそこには在った。

「母様、また雪が降りましたね」

 今は、返って来る声もなく、僕はひとりで空を仰ぐ。
 灰色に澱んだ空から零れる雪が、しんしんと降り積もる。
 あれから、何年経ったのだろう。
 母様やカイム様と寄り添って生きた日々はあんなにも輝いていたのに。
 刹那の出来事のようだった。
 今は、何もない。
 することも、目的も、何もない。何もない時間は、ただ苦しいだけ。
 なのに長くて、長くて。

「もう……望むのは終いです。僕は何も望みません」

 この雪のように真っ白なまま、何も思わない。
 欲しない。
 染まらない。
 僕は、もう……何も。

「母様……」

 しんしんと降り積もる雪は、僕を包んでいく。
 生き物から熱を奪うはずの雪が、僕を包む温もり。僕の隙間を埋める水。
 雪で凍えることも、死ぬことも、僕には無縁のこと。

「かあさま……」

 雪景色に、僕の涙は紛れて消えた。



Title by ジキルの啼哭


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