声が、した。
「かあ、さま?」
“母様”の声がした。
18年前、この世界を救うために封印となった、母の声が。
は立ち止まり、空を仰いだ。
何も無い澄んだ空を、ただただ仰いだ。
「?」
呼び掛けにも答えない。ノウェが困ったようにマナとユーリックを顧みた。
すると今度はが走り出した。
「えっ!? !」
慌てたノウェの叫びに、は動きを止める。ぴたりと立ち止まり、その場に座り込んでしまった。
ノウェたちが駆け寄ると、は俯いたまま何かを呟いていた。
「……?」
心配したマナが、そっと手を伸ばす。指先がの肩を触れるか触れないかの時、
「――離れろ!」
ユーリックがマナを引っ張った。ノウェも何かを察して飛び退く。
――刹那、冷気が駆け抜けた。
ノウェたちの目先に、おびただしい数の氷柱がそびえている。それはを中心に生まれていた。
後少し退くのが遅かったら、氷漬けにされていたに違いない。
「……かあ、さま」
の小さな声がした。
「苦しいのですね……母様、母様……! ニンゲンが、人間が……」
泣いているような、けれど鋭く冷たい声。
「だから、嫌だったのに、母様、母様……!」
が呟く度に風は凍え、氷柱が増えていく。
何が起きたのか判らない。に何か異変が起きたのは明らかだった。
どうしよう、とノウェが考えた瞬間、熱風が吹いた。
『、落ち着け!』
熱風の正体はレグナの炎だった。氷柱は瞬く間に一掃された。
呆然とした顔のがレグナを見上げている。ようやく我を取り戻したらしい。
「あ……」
の顔は真っ青だった。
ノウェたちを見つめる瞳は光を落としたように陰り、涙が滲んでいる。
何だか声を掛けるのも、触れるのもはばかられた。
「」
ユーリックがに歩み寄っていった。はびくりと肩を震わせて、涙を堪えている。
「ごめ、なさ……!」
「怒ってないから、怖がるな」
「ぼくっ、僕……」
身を縮めて震えるの頭に、ユーリックがそっと触れた。そのまま、わしわしと豪快に頭を撫でる。
それから、すっかり呆気に取られた様子のの腕を引っ張って無理矢理立たせた。
「……あの、僕……」
「さっきはヒヤヒヤしたぜ、もうあんなのは勘弁してくれよ?」
明るいユーリックの声に、は固まっていた。
ぼさぼさになったの髪を笑いながら直して、もう一度ユーリックはを見た。
「――な?」
は小さく頷いた。涙はすっかり引いて、頬がほんのり赤く染まっている。
ユーリックはうんうんと満足そうに頷いて、ノウェとマナを振り返る。
ノウェとマナは、目を丸めてその様子を見ていた。
「……ユーリック、よく判らないけど、凄いな……」
「ん? そうか?」
「……も落ち着いたみたいで良かった」
マナの呟きに、「すみませんでした」とは何度も頭を下げたのだった。
――かあさま、まっていて。もうすこしだから。
(Title by はくせい)
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