エリスは、セエレにあっさり面会出来る僕を不審に思っていたらしい。
 変に疑われて、あの長い槍で突かれでもしたら嫌だ。なので、僕はセエレに話して、エリスを連れ出す許可を貰った。
 セエレは偉い役職なので、セエレの命令となればエリスは従うしかない。嫌々ながらも僕についてきた。
 広い草原に、他の人の姿は見当たらない。

「私をこんな所までつれてきて、どういうつもりですか」
「今から、僕がセエレと会える理由を説明します」
「神官長と…?」

 ――僕は彼女の目の前で、竜へと姿を戻した。
 訝るエリスの瞳は、瞬く間に驚愕へと染まる。何が起きたのか判らなかったようだ。僕は丁寧に説明する。

『僕は見ての通り、竜です。セエレとは以前、共に旅をしたことがあります。寂しがるセエレに頼まれて、たまに顔を見せにいってるんですよ』

 聡明なエリスは、そんな僕の台詞に納得したようだった。

「ですが、やはり神官長にお会いするのでしたら、正当な手続きをお願い致します」

 が、納得した上で、改めて文句を言ってきた。

『僕は竜だから、人のそういう面倒なところは真似ないようにしてる』

 エリスは少し不満そうだったけれど、僕は知らんぷりをした。

『エリス。その代わりと言ってはなんですが』
「なにかしら?」
『僕の背にお乗りなさい』

 まさかの申し出だったんだろう。エリスは目を丸めた。僕はゆっくり体を伏せると、彼女が乗るのを待った。
 戸惑いながらも、彼女は自身の好奇心に勝てなかったようだ。慎重に僕の背、首の根元あたりへとのぼり、腰を下ろす。

「まさか竜に乗れる日が来るとは思いませんでした」
『貴女なら乗せても良いと思ったから』
「どうして?」

 興味深そうに僕の体を撫でる彼女に、静かに返す。

『僕は人間が嫌いなはずなのに、不思議とエリスには嫌悪感を抱きませんでした』

 ――可哀想なシルシを与えられた、可哀想なおんなのこ――。

『貴女に似て非なる運命を持ったひとを、思い出したからかもしれない』

 僕の呟きに、彼女は手を止めた。
 エリスは何も答えない。
 ――僕はゆるりと羽ばたいた。少しずつ高度を上げていく。

『セエレに怒られる前に、貴女を帰さなければ。しっかり掴まっていなさい』

 ええ、と小さく頷いた彼女の手は、震えていた。

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