は、目前で不敵に笑う女性を真っ直ぐに見据えた。
体のラインがくっきりと現われる黒のボディスーツ。風に波打つ黒髪に、眼鏡越しでも良く判る艶やかなまなざし。
天使をいとも容易く葬り、闇を纏って彼女は舞い降りて来た。
――のバイクの真上に。
「……とりあえず、退いて貰おうか」
「あら失礼」
「修理に出すつもりだったから構わないよ。まあこの分では、新車を買った方が早そうだがな……」
見るも無残な潰れ具合の愛車から目を逸らし、は改まった。
ぷすぷすと焼け焦げる音と刺激を伴った黒煙が、何だか切ない。
「ロダンから話は聞いている。お前がベヨネッタか……」
「こっちもロダンから話は聞いてるわ、」
「それは光栄だね」
やはり気になるのか、再度はバイクへ視線を送る。ふっと小さく笑ったベヨネッタは、ようやくひしゃげたバイクから降り立った。
「やっぱり気にしてるじゃない。おじゃんにしちゃった分の借りは返すわよ」
ベヨネッタが「はい」と可愛らしく差し出してきた品に、は首を傾げた。
「……棒付きキャンディ?」
「味は保障するわ」
「そうでなくて……これでチャラと言うことか?」
「どうせ買い換えるんでしょ?」
「……有り難く頂くよ」
受け取ろうとしたの手を躱して、ベヨネッタは彼の唇にキャンディを押し当てた。
の顔が驚きに強張る。
「ほら、お口を開けて?」
彼女に言われるがままに口を開いて、差し込まれたキャンディを咥える。
さすが魔女お手製というべきか、身体の疲れが癒されていくような気がした。先に天使と戦って切った頬の傷も、塞がっている。
「凄いな……。甘い良薬も存在するものなのか」
「お気に召したようで良かったわ」
笑うベヨネッタを見つめながら、はロダンたちの話を思い出していた。
彼女には自分の記憶が無いこと。永い長い眠りからつい最近目覚めたことなど、だ。
(懐かしいな、また魔女を見ることになるなんて)
随分前に一度見た時はもっと沢山いたのに、“あの”時代で殆どが殺されてしまった。かつての数少ない仲間も、同じように狩られて死んだ――。
親近感に近い、不思議な情がの中にはあった。
だが、感傷に浸るほど、彼女も自分もデリケートではないようだ。
「……さて、と。新しいバイクでも探しに行くか」
「じゃあこれは処分しちゃって構わないわね」
「ああ。……処分?」
が瞬きすると同時に、顔の真横を何かが過ぎ去った。
程無くして轟音が響き、天使の断末魔が耳を突いた。振り返るとそこには、見るも無残に爆ぜ飛んだ愛車の残骸。
散った天使の羽が舞い、めらめらと炎上しているその様を、は呆然と見つめていた。
「さすが愛でてただけあるわ。素晴らしい爆発じゃない?」
「……そちらこそ、随分と画期的な処分方法で」
「ありがとう」
爆音は他の天使たちにも届いたようだ。雲の隙間から差す光と共に、何体もの天使が武器を携えて舞い降りて来る。――とベヨネッタ、二人を狩る為に。
「これはまた、盛大なお迎えを寄越してくれたものだな」
「あら嫌だ、私たちが招待してあげたのよ。まだお迎えして貰うには早いでしょうに」
左手に構えた銃で眼鏡を押さえながらベヨネッタが言う。彼女と背中を合わせるようにして、は立った。
コートの中から取り出した双剣を構え、天使を見据えて呟く。
「もうそんなに、無理が出来るほど若くはないさ」
疲れたような声音とは裏腹に、鋭く煌めいた紅眼の光を、ベヨネッタは背中越しに感じていた。
(Title by 亡霊)
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