――近、い。
 の額を、一雫の汗が伝った。鼻先には、お手製のロリポップを咥え、妖艶な笑みを浮かべるベヨネッタ。
 ――路地裏に不意に引き込まれたと思ったら、何だ。この状況は……。
 普通の男ならば、こんな美女に捕まったとしたら喜ぶところかもしれなかったが生憎はそういった感情に疎かった。
 が視線を逸らそうとした時、ベヨネッタの指が彼の顎を優しく撫ぜた。

「恥ずかしがることは無いのよ?」
「そう、言われても」
「歳の割にうぶね」

 ベヨネッタは、のネクタイを解き、ワイシャツのボタンを外し始めた。
 は真っ赤になって硬直した。ベヨネッタの手が、露になったの胸板に触れる。

「ほら、やっぱり怪我してるじゃない」

 赤く滲む包帯を見つけたベヨネッタは、包帯まで解き始めた。出来て間もないらしい切り傷は、真っ赤だった。
 はハッと我に返り、慌てて口を開く。

「べ、ベヨネッタ。一体何を……」
「怪我人は黙ってなさい」
「うっ!?」

 ベヨネッタは自分が咥えていた飴をの口に突っ込んだ。それでも騒がしいを無視し、彼の傷口に触れ、――舌を這わせた。

「な、っ!? やっ、止めろ……っ!」

 また顔を赤くするへ上目遣いで見上げつつ、ベヨネッタは切り傷をじっくり舐めあげた。
 は口を押さえてベヨネッタを見つめたまま言葉を失ったように黙っている。
 痛みというよりは、痺れるような感覚に近い。舌が滑るたびに体の熱は強くなる。熱くてたまらない。燃えて塵として尽きた方がよっぽど楽なんじゃないかというほどに。
 は、顔を逸らして耐えた。
 嗚呼、こういう状況を目の毒と言うんだ。視界が、犯される。端から端まで、焼かれる。

「ほら、治っちゃった」

 何のことか判らず視線を戻したは、あ、と声を出した。
 ベヨネッタの舌が触れた傷口は、綺麗に塞がっていた。そういえば彼女は直前までキャンディを舐めていた。その成分が残っていて、効果を発揮したのだろう。

「そのキャンディもあげるわ。折角のいい男なんだから、あんまり傷つけちゃダメよ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」

 すっかり取り乱したの姿に、ベヨネッタは満足そうに頷いていた。
 の顔は、まだ赤い。

「普段のクールな顔も良いけど、真っ赤な顔も可愛いわね。

 そう呟きながらベヨネッタが贈った投げキッスに、はまたもや言葉もなく取り乱して俯くのだった。


(Title by 亡霊)

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