先程から俺の頭や尻尾や背中に衝撃が走っている。
 二人の子供が乗ったり引っ掴んだりと、俺に好奇心をぶつけてきているからである。
 時としてそれは激痛を伴う。尻尾がもげるのでは無いかと何度焦ったことか…。

「セレッサ、次は私が背中乗るのよ!」
「えー、もうちょっとー!」

 自分で言うのも何だが、こんなに大きい狼はなかなかいないからな。ましてや隔離された世界で育つ子供たちにとっては……いだだだ! 駄目だ、耳が千切れる!!
 うっかり起き上がった俺の背中からセレッサがずり落ちる。ハッとして振り返ると、きょとん顔のセレッサが俺を見ていた。

「す、すまない! 大丈夫か?」
「ワンちゃんは悪くないわ! セレッサがあんまり強く耳を引っ張るからよ」
「ごめんなさい、ワンちゃんっ」

 ジャンヌに窘められ、セレッサは素直に頭を下げた。
 こう謝られてしまえば、お人好しな俺は何も言えなくなってしまう。謝らなくたって、元から何も言う気は無かったけれど。

「良いんだよ。今度から気をつけてくれたら良い」

 セレッサに笑顔が戻る。
 お母さんによく似て可愛いじゃないか。

(……もう一度、貴女に会いたいな)

 緩んだ俺の首に、ジャンヌがしがみついてくる。真似るようにセレッサも続く。

「ワンちゃん、遊びましょ!」
「あっちでお花が咲いてるの。ワンちゃんにもお花かんむり作ってあげる」

 可愛いレディたちの誘いを、俺が断る訳無いだろう?

「もちろん、ご一緒させて貰おう」

 さあ行こうか、二人とも背中にお乗り。
 俺がそう促すと、ジャンヌとセレッサは喜々として俺に跨がった。きゅっと毛にしがみつかれて少し痛い。
 二人を落とさないように、ゆっくり歩き出す。

「ねえワンちゃん、走って走って!」
「おいおい、危ないだろ?」
「大丈夫、しっかり掴まっているから!」

 ねだられると俺は弱い。
 しっかり掴まっているんだぞ、と念を押し、歩を早める。
 セレッサとジャンヌの楽しそうな声を背中から感じながら、俺は笑った。

(ちょっとぐらい引っ張られている毛が痛いのも、気にならないな)

 どうか幼い少女たちの未来が、幸せに満ちているように。
 柄にも無い俺の祈りは、果たして届くものなのか――。

「きゃーっ、速いはやい!」
「ワンちゃん、風みたいー!」

 はしゃぐ二人の勢いに、俺の思考は現実に引き戻された。
 ――毛っ……毛が、抜ける!
 そんな苦しみも、二人の笑顔に癒されてしまうんだけどな。


(Title by 水葬)

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