声が反響する。
何だ。誰だ。
俺はどうして、此処に。
声が霧散する。
待て。答えろ。
俺は何故、此処に。
(肝心な時に、俺は無力だ)
「ロダン、いつもの」
「どうした、顔色が悪いぜ」
「いつもの事だ」
「まあな」
いつものココアを差し出され、いつものようにはそれを口に含んだ。
「最近の世は、物騒で適わないなー」
「随分と楽しんでるようだがな。左手が緩んでるぜ」
「……判るか?」
ガシャンと派手な金属音を立てて、は左手を引き抜いた。
二の腕半ばから指先に至るまで精密に作り込まれたその義手は、随分昔にロダンからプレゼントされたものである。
腕が一本でも残っているなら十分だと思ったが、やはり二本あると便利で。すっかり自分の身体の一部として馴染んでいた。
「どのぐらい掛かりそうだ?」
「そのココアが冷める頃には終わってるぜ」
「そうか、頼む。代金は、次来た時に持って来るよ」
「この店でツケをまともに払ってくれるのはお前くらいのもんだぜ、全く……」
は苦笑した。エンツォもベヨネッタも、他にも色々と、確かにまともに支払いをしてくれそうな面子はいそうにない。
「俺は、ツケっていうのは好きじゃないんだ……。というか借金が怖い」
「それは賢明な判断だ。奴等にお前の爪の垢を飲ましてやりたいくらいだよ」
ロダンは義手を抱えて姿を消した。
レコードを聞きながら、はのんびりとココアを飲み進める。
(あの軋み具合、相当だったな。遊び過ぎたか)
ココアを飲み干し、空になったカップをじっと見つめていたの元に、ロダンが戻って来た。
「かなりくたびれてたぜ、全く。一体何をしてきたんだ?」
「この間、気になる奴がいてな。計らずしてお相手する羽目になった」
ロダンから受け取った義手を付けながら、は答える。
灰銀の義手はまるで新品のような輝きを取り戻し、店内の薄い明かりを返していた。
「お前のお眼鏡に適うとは相当の上玉だな」
「ニオイから察するに、混血だったな。見事な銀髪の、確か以前エンツォがぼやいていた……うむ……あと男だぞ」
「軽い冗談だろ」
ロダンが笑いながら、空になったカップにココアを注ぐ。
は何も言わずにまたココアを飲み始める。
「ベヨネッタとは会ってるか?」
「何だ、急に」
が首を傾げた。
ロダンは続ける。
「お前のベヨネッタに対する態度は、何かあるような気がしてな」
は目を伏せた。
静かにココアを一口啜る。
少しの思案を終え、彼は口を開いた。
「昔、世話になったひとに似ているんだ」
「惚れてたのか」
「……そうかもしれない」
遠い昔。
まだ若く、俺は未熟だった。
傷付いた自分を、暖かく介抱してくれた、あのひと。
闇に生きる、魔女。
(俺は、何も出来なかった)
行われた魔女狩り。
助けたくて、助けたくて。
一心に駆けた俺の前に現れた男は、笑って俺の片腕を薙いだ。
「ベヨネッタを辿れば、俺の探しているものに当たる気がするんだ。もちろん全部彼女頼りって訳じゃないが……」
それに、彼女との接触は、かなりの緊張と労力を伴う。
彼女の一挙手一投足が、には赤面ものであり、艶めかしい視線を真っ向から受けるのは厳しいものがある。
うなだれるに、ロダンはぽつりと零した。
「……本当に狼か、お前」
「狼イコールがっつくと思ったら大間違いだ。俺は紳士的なんだよ。大体狼というのは元来一途で情に厚い生き物でだな……」
は、女性全般の扱い方が不得手なことをロダンはよく知っている。
それ以上つつくのも可哀相になり、ロダンは笑いながら三杯目のココアをに振る舞った。
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