自分は女装してはいるが、だからって女の人に興味が無いわけじゃあない。
だからクリステルさん綺麗だなぁって思ってて、いいなぁって思う女の人にはちょっと親切にしたいとか構われたいとかとりあえずそんな感じでつい声かけてしまって、それがこんなことになるとは思いもしなかった……。
――何とか振り切ったか。
はそっと息を吐いた。
「ああ、山崎くんに会いたい…」
真選組の山崎はのお気に入りであり心のオアシスだった。何だか放って置けない弟みたいなもので、かなり猫可愛がりしている。
「あうー、山崎くん…」
「かような場所で喘ぎ声を上げるとは大胆な…」
「うぉおお!?」
は見事なバックステップを披露した。
全然振り切れていなかっただと――。
流石、陰陽師というべきか。何か術を使ったに違いない。というか本能で追跡されていたら怖いので術に違いない。じゃないと困る。改めて言おう、怖い。
「な、何なの本当に…俺困るんですよー…クリステルさんは好きだけど、あくまで可愛いなとかで、恋愛とかでなくて…。というかクリステルさんのお兄さんだとかもうついてけなくてー…」
「――晴明」
「はい?」
縮こまるに、晴明は静かに告げた。
「さん。わしのことは、“晴明”と呼んでくれ」
「へ…?」
端正な顔はほんのり赤く、年上であろう晴明がずっと幼く見えた。
此処で下手に扱ったら泣くかもしれない。しかし下手に答えては相手を喜ばせるだけだ。
悩むの沈黙は長かった。
……不意に晴明が「うっ」と唸って顔を歪める。
「め、迷惑をかけたのなら、心から詫びよう…。その、わしは色恋沙汰は愚か、他者の心情を察するのが下手で…。じゃが…その、嫌われたくない…さんには……わしは、その……」
晴明は、が「口も利きたくないほど怒り心頭で自分を嫌っている」と勘違いしたらしい。
喋る度にぐずつく晴明の姿に、お人好しなの悪い癖が出てしまった。
「もう、泣かないで下さいよ」
「す、すまぬ。自分でもこんなキャラでは無いと判っておるんじゃが、どうしたことか…」
「とりあえず落ち着いて」
は晴明に近付き、その頭を撫でた。
子供をあやすようにゆったりした動作だ。
ぐずぐずと鼻を鳴らしそうな勢いだった晴明は少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
晴明がはたと顔をあげると、と視線があう。は泣かせまいと思い、そっと笑いかけた。晴明の顔が、火でもついたように真っ赤になる。
「わっ、わ、わっ…! さん、わしはっ…嫌われているのでは……」
「…嫌いとは言ってないからね? ただコソコソ探ったりいきなり求婚されたりしても困るからって話で」
「さん…」
「で良いです、さん付けんで良いです。…晴明さん」
名前を呼ばれたことで晴明の気はますます動転した。
「はぐぅああ……ッ、口から心臓が飛び出しそうじゃ…!」
「ちょ、んなことされたら対処に困るから!」
「と、ときめきで息切れが……ッ!」
ぜぇぜぇはぁはぁと荒い息の晴明には焦った。
時々すれ違って行く人たちの視線が痛い。
は晴明の手を引いて走り出した。せめて、人気の無い場所で落ち着いてもらうために。
「っ、さっ、わしは…っ!」
何か言い掛けている残念なイケメンを引っ張ってやってきたのは公園だった。
度々サングラスの人相が悪いホームレスがうろつくせいか、昼間だというのに人ひとりいる様子は無い。
ベンチに晴明を座らせ、は近くの自販機で茶を購入して戻ってきた。
「はい、これでも飲んで落ち着いて」
「す、すまぬ…」
しかし晴明はプルトップもまともに掴めない様子だった。は仕方なしに代わりに開けてやると、改めて晴明に渡した。
申し訳ない、と晴明がまたしょげる。は盛大な溜め息をついた。
「あのさ、晴明さんは江戸を守るお偉いさんだろ? こんなグダグダなダメ男で良いの? 銀時たちの話からするに、何かキャラ変わってません?」
「す、好きな人の前ではどうしたら良いのか判らんのじゃ…」
思春期かよ。
冷静なツッコミをぐっと飲み込み、は晴明を見た。
「とりあえずお仕事に戻ったら? あんまり席外してたらヤバいでしょう」
「わしが目を離した隙にさ…がさらわれでもしたら…」
「ねえよ…。これでも銀時たちと一緒に戦切り抜けて来た男なんだから」
うなだれるに、ふと真剣な顔つきで晴明が尋ねて来る。
「――銀時とは仲が良いのか?」
「腐れ縁ですよ。お互い死んだとばかり思ってたけど。良いっちゃ良いのかな、仲」
「そうか…。妬けるの」
え、とが顔を上げる。
晴明は拗ねていた。眉をひそめ、ふんと口を尖らせて。
は改めて、この男は本当に稀代の陰陽師・結野晴明なのか疑問に感じた。
(マジで思春期なんじゃないの……)
正直、相手にしづらい。
は逃げる方法を模索し始めていた――。
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