「、何してんだ」
「…晋助?」
俺はすぐに視線を戻した。
あんまり好きじゃないんだ、晋助のこと。
だって「女みてえ」って真っ先に馬鹿にしてきたし、本当に女じゃないか確認するとか言って服めくってきたし、何かもうマジ餓鬼みたいなんだ。
銀時たちといる時はそうでもないのに。女みてえだってんなら桂だって見た目それっぽいじゃん。
先生が「根は良い子だから仲良くしてあげてくださいね」って言ってなかったら、口さえ聞いてやんないのに。
「だから、何してんだって」
「……蟻の巣掘ってた」
「気色悪ぃな」
そう言うなら隣に来るなよ。新しい丈夫な枝を拾ってきて、晋助は俺よりずっと乱暴に巣を引っ掻き始めた。
ざわざわと慌てた蟻がどんどん出て来る。
ざく、ざく、ざく。
だいぶ掘った。白い、蟻の幼虫や卵が出てきた。
晋助は乱暴に枝を突きたて続ける。色々と酷いことになってきた。黒い点も白い点も、土に混ざって潰れる。
呆然とする俺がいじるまでもなく、晋助の手で蟻の巣は壊滅してしまった。
「…蟻、終わった」
「終わってねえよ馬鹿」
晋助は飽きてしまったように枝を放り投げた。
「蟻の巣ってのはもっと深くて広い。このぐれえじゃ終わらねえ」
「そうなんだ」
「でもまあ、大打撃には違いねえな」
へえ、と頷く俺の手から枝を奪う晋助。やっぱり放り投げられる枝。そして空になった俺の手を、晋助がぎっと引っ張った。痛いよ馬鹿。
「何すんの」
「蟻の巣はもう十分掘ったろ。行くぞ」
「……晋助に掘られちゃって、自分じゃたいして掘れてないけど」
「掘ったことに変わりはねえよ」
何なんだ、こいつ。
人の暇潰しを奪った挙句、人を連行しようなんて。嫌な奴だ。やっぱり…。
ずんずん歩く晋助に引っ張られながら、俺も歩く。
茂みを分けて、まだ歩く。
急に晋助が足を止めた。よろめいて晋助にぶつかってしまう。ちらりと俺を一瞥しただけで、珍しく晋助は何も言わなかった。
代わりに顔を上げて、目の前の木を見つめた。
「良い香りだろ?」
「え…」
大人より少し大きいくらいの木には、白い花が咲いている。晋助の言うとおり、甘くて良い香りがした。
晋助は、花をひとつもいだ。
「あ」
良いのか、そんなことして。
声を漏らした俺に、晋助は向き直る。花を持ったまま、俺に手を伸ばす。
何をされるのかと思って、反射的に身をすくめて目を閉じた。
…花の香りが、近い。
「梔子」
「…え?」
「こいつの名前だよ」
俺は目を開いた。
髪に何だか違和感。そっと左耳あたりに触れると、何かがあった。花だ。すごい香り…。
くちなし、と晋助は言った。そうなんだ、くちなしって言うんだ。
でも何で人の頭に差す必要があったの。
「…似合ってるな」
「は?」
晋助は笑った。
「女みてえ」
何時もの悪口とは違う何かを感じて、俺は何も言えなくなった。
晋助がまた俺の手を引いて歩き出す。
俺はくちなしの香りに集中して、騒がしい心臓を落ち着かせることに必死だった。
来る時と違って、晋助はずっと優しく手を掴んでくれていた。
それがますます、俺から落ち着くということを遠ざけているのを、きっと判っててやってるんだ。
(やっぱり…いやな奴)
何故か、体が熱かった。
Top