アスファルトに転げて体を打つ感覚も、殴られて口の中に広がる血の味も、いい加減うんざりだ。
(どうして僕ばかり)
家族は死に、家は二回焼け、空き巣にもあった。バイクにつっこまれて怪我をしたこともあるし、今の財産はほぼゼロ。そして今もまた、こんな路地裏に引き込まれ、カツアゲの犠牲になっている。
(……でも、死なないだけマシだよね……)
僕は“おかしい”から、こんな目に遭うんだ。それでも生かされているのは幸福なことだ。でも、でも。
「助、けて……」
毎日叫んでるんだ。
「誰か……」
取り上げられた財布の中身は殆ど空だ。数日前に拾ったテレホンカードが唯一の財産とも言える。この間バイト先にシフトを確認するために使ったきりだ。
……と言っても、テレホンカードは不良品だったらしく、勝手に変な女の人に電話が繋がって、良く判らないアンケートをさせられた。何だか気味悪かったが、捨てたら祟られそうで持ちっ放しでいた。
「助けて、下さい……誰かぁっ!!」
泣きながら掠れた声で叫んだ。いつものことだった。いつものように叫んで、でも助けなんて来ない。自分には抗う力も無い。眼鏡が割れて、レンズの欠片が頬を薄く裂く。
……それで、終わるはずだった。
(初めて、神様が僕を見つけてくれたのかもしれない)
不意に視界が陰ったと思ったら、それは人だった。黒髪の活発そうな少年。僕は呆然と彼を見上げていた。少年が動く。僕を取り囲んでいた男たちは少年の振る拳を食らい、ばったり倒れて行った。
(なんて強い子だろう)
ケリはあっという間についた。少年の完全勝利。少年は僕の側に屈むと、そっと手を差し出した。
「大丈夫か?」
誰かに心配されたのは、何年ぶりだろう。
僕は、少年の手を掴みながら、嗚咽を堪えずに泣いていた。少年は困ったように視線を泳がせて、それから僕の背中を泣きやむまで擦り続けていてくれた。
「あり、がとう」
嗚咽の隙間から、懸命に絞り出した感謝の言葉に、少年は笑ってみせた。
それが、少年――夜科アゲハとの、初対面だった。
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