三回目の火事でした。
 偶然近くを通った夜科くんと雨宮くんがいなかったら、僕はきっと焼け死んでいた。

「父さん、母さん……僕生きてるよぉ……」

 二人の遺影をがっしと抱きかかえて、ボロボロ泣いた。警察や消防やら救急車やら。色々とどたばたして、気付いたら少年たちに囲まれていた僕。

「なあ、もう荷物ねーのかよ?」
「……無いです」

 無事だった通帳の残高も、大したものじゃない。ああもうこれからどうしよう。
 悩む僕を余所に少年たちは何やら話し合っている。

「駄目元で掛け合ってみよーぜ。あそこならコイツの不幸も少しは軽減されるだろ」
「でも大丈夫かしら? いきなりそんな……」
「行くだけ行ってみねえか、雨宮。どうせ宛ても無いんだし」
「……判った」

 どうしたんだろう。
 理解するよりも早く、朧くんという青年が車に乗って駆け付け、僕と段ボール一個分の荷物は中に放り込まれた。
 え? 何? 何なの?
 混乱に冷や汗、動悸に震え。僕は口をぱくぱくさせながら、流れに身を任せるしかなかった――。




 ――伊豆って、初めて来ました。

「良かったな、! バァちゃんが『良い』ってよ!」
「え? 何が? っていうか、此処どこですか?」

 でっかな屋敷にでっかな庭。通された客間もでっかなもので。多分目の前にいるお婆さんが主人なんだろうけれど、何でまた僕はこんな場所に……。

「天樹院エルモアって、聞いたことないかい?」
「える……?」
「やっぱり知らなかったみたいだね。……僕のことも知らないくらいだもんなぁ」

 朧くんは笑いながら言った。もしかしたら、僕が朧くんのことを有名人だって知らなかったのを気にしてるのかな。申し訳ないことをしてしまった……。

『あのね、さん』

 しょぼくれる僕に、雨宮くんからのテレパシーが届く。

『天樹院エルモアは、サイレンの秘密に5億もの懸賞金を掛けた大富豪なの。そしてこの屋敷にいる子供たちもエルモアも、皆サイキッカーよ』
『へぇ……え!?』
『ただサイレン世界の話は、前にも話した通りナイショよ。話したら死んじゃうから。エルモアも、そのことは理解してくれてる』

 何だか知れば知る程、混乱してきたんですが……。
 お婆さん……エルモアさんは、僕の前まで歩いて来ると、ゆったり口を開いた。

「お前さんもサイレン世界に招かれ、生き延びた人間なのじゃろ? ……ああ、ワシが勝手に話すから何も言わんでええ」
「は、はぁ……」
「ワシはあの世界のことが知りたい。じゃからお前さんの面倒を見てくれという話を引き受けた」

 これは善意というよりギブアンドテイクということかな? でも、情報なんて全然与えられそうに無いんですが……。

「じゃが! 此処に住むからにはぎっちり働いてもらうぞ」
「は、はい」
「まず一週間様子を見さして貰う。駄目そうじゃったらポイする」
「は、はい……、っ?」

 何かが、素早く近付いて来るのを感じた。危ない。これ当たったら痛い。
 PSIの特訓をしてた時の朝河くんから何度も怒鳴られた記憶がふっと蘇る。

『屈むな! 避けろって言ってるだろ!』
(よ、避けなきゃ!)

 かなりギリギリだったけど、慌てて避けた。頭が少しくらくらした。ライズって難しい……。
 僕に向かっていた何かはその頃、近くの夜科くんに確保されていた。
 褐色の肌にハリネズミのようなつんつんのロングヘアー。……雨宮くんが言ってたサイキッカーの子供かな。

「カイル! にぶつかったらどうすんだ! 折れるだろっ!」
「だってさ、見ない顔だったから! てか避けられたー!」

 カイルくんって言うのか、元気な子だなー……。

「凄いね君。以前来た時、アゲハ君は避けるどころかクリティカルヒットしていたよ」
「あ、朝河くんにどやされたのが蘇ったから……」

 カイルくんに続いて、ぞろぞろと子供たちがやって来た。
 ひととおりそろったのか、エルモアさんが僕を振り返る。

と言ったね」
「はいっ」
「今日から、洗濯掃除芝刈り子供たちの面倒、たんまり働いて貰うからの。頑張りんさい」
「はい……っ」

 緊張しながらも返事をすると、エルモアさんはにんまり笑った。


 子供たちは皆、サイキッカーであったが故に、苦しんで来たんだそうで。そういう子たちを、エルモアさんは引き取って育てているそうな。
 何だか他人事じゃない気がして、僕は不思議な気分になった。

「うん、頑張ろう……」

 あてがわれた部屋の広さに圧倒されながらも、僕は改めて気合いを入れた。

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