「っ」
鏃を研いでいたらしいは、矢を片手に振り返った。
「どうした? マオ」
「どうしたじゃないヨ! いきなりいなくなってたから探してたの」
「ふーん」
「他人事みたいにしちゃって、もー!」
大して反省した様子のないに、マオはますます声を荒げる。
はけらけら笑いながら道具を片付け始めた。
「高台好きなんだよ」
「皆でご飯食べた方良いじゃん」
「でも、高台好きなんだよ」
マオよりずっと背の高いは、何故か時々マオよりずっと幼く見える。
それはが独特の価値観で、何にも縛られずに自由に生きているせいなのだろうか。
マオは、そんなが少しだけ羨ましかった。
「って、気付いたら遠くにいるから心臓に悪いヨ」
「風は一か所にとどまるものじゃないだろ?」
が笑いながら宙に浮いた。彼を取り巻くのは、風。も能力者で、風を操るフォルスの持ち主なのだ。
「でも、僕はちゃんと皆のとこに戻るじゃないか。だから大丈夫さ」
「訳判んないヨ……」
「判らないままでもよい」
マオはが風で遊ぶのを目で追った。
彼の左目は相変わらず長い前髪に隠れて見えない。
以前アニーがそのことを尋ねた時「見えないから隠してる」と言っていたのは事実なのかもしれなかった。
「マオ、戻るか」
地に降りたは、隻眼を柔らかく細めながら右手を差し出した。マオは小さく頷き、そっとその手を握る。
の手は、手袋ごしでも結構大きくて。自分はやっぱり子供だなと思った。
「ボク、本当は知ってるんだよ」
は何も言わない。静かにマオの次の句を待っている。
「は目も耳も良いから、バイラスがいきなり襲ってこないか見張ってるんでしょ?」
そして、必要であれば迎撃していることも、マオは知っていた。
「……ユージーンから聞いたのか?」
が問うと、マオは頷いた。やっぱりなぁ、とはおかしそうに笑ってみせる。
「まあ、僕の能力・武器のどちらを見ても、これほど見張りにもってこいなメンバーは他にいないしな」
「でも、危ないヨ!」
「そういう時はちゃんと知らせるから。それに大抵風で吹っ飛ばせば何とかなる」
やはり笑いながらマオの心配をさらりと流し、は言った。
「僕がやりたいだけなんだ」
マオはの顔を見上げたまま、言葉を詰まらせてしまった。
――何で、そんな、優しい笑顔してるの――?
胸がきゅうっと締まるような息苦しさに襲われる。
誤魔化すようにの手をきつく握ったら、「痛い痛い」と彼は何時もの笑いに戻った。
「ま、そういう訳だから。僕の楽しみを奪おうなんて思わないでくれよ」
マオは静かに頷いてみせた。
それから皆と合流するまで、マオはの手を離そうとしなかった。
ようやく離した頃にティトレイが茶化してきたけれど、どうも何時ものように騒ぐ気にはなれなくて。
「あーもう! のせいだからネ!!」
しばらくは、よく判らない八つ当たりを受けることになったのだった。
「僕、何したっけ……」
(Title by 確かに恋だった)
Top