飄々としたの態度はいつも崩れることがない。
まるでの中には、悲しみや怒りという負の感情が存在しないかのようにも思えた。
そのことを彼自身に聞いてみても「怒ったり悲しんだりは疲れた」と意味ありげに呟き、一蹴されてしまうだけ。
彼は必要以上な干渉を拒んでいるようだ。
その癖、困っている人は放っておけないし、誰かが悩んでいれば自然と相談相手をこなすし、よくできた大人である。
かと思ったら腹が減ったと文句を言い、からかわれたらからかい返し、子供のよう。
考えれば考えるほどという人間がよく判らなくなる。
「じゃあ考えなきゃ良いよ」
はそう言って笑った。
「あんまり考え込むと眉間に皺が寄っちまうよ」
「……そうか」
「ヴェイグは考え過ぎなんだ」
笑いながら俺の頭をぽんぽん撫でてくる。
これは子供扱い云々ではなく彼の癖らしいが、何だか複雑な気分になる。
……あのユージーンでさえ頭を撫でられていた時は、もうどうしようもないんだなと思ったが。
「せめて自分より背が高い奴の頭を撫でるのは止めてくれないか」
「無理。これ癖だし」
悪戯っぽい話し方。
いくら考えても、行動を見ても、彼の真意を計ろうというのは無駄な行為で。
「嫌なら嫌って言えば良いのにね?」
「それ、は」
「嫌がられたら、流石に学習してさ、今度からはやらんよ?」
拒まないそっちが悪いだろ? とは笑う。
「肯定した覚えも無い」
「沈黙は了承と受け取る」
この、妙に大人っぽくて子供臭い発想。
と口論しても、終わりが見えないことはとうの昔に学習したというのに。
「そーゆー訳だから。もう少し感情的になるんだな、ヴェイグ」
「……俺は……」
「若者の特権だぞ、感情のまま突っ走ってけるのは」
一瞬だけ、の目が淋しそうに伏せられた気がした。
「大きくなると、余計な知恵がついて回って悩むんだ」
は、判っているのだろうか。
そういう思わせぶりな言葉が、俺の好奇心を刺激していることに。
なのに俺は何も言えなくなるんだ。
と対等に会話するための手段が、俺には思い付かない。
「……お前と話していると、俺はどうしたら良いのか判らなくなる……」
ようやく漏らした愚痴に、はやっぱり笑ってみせる。
「どうにかしようって考えるのが間違いなんだよ」
そしてまた、俺の頭を撫でた。
「僕は何も考えてない。だからヴェイグも考えないで適当にしちまえば良いんだよ」
ますます混乱する俺の眉間を、はぐいっと人差し指で押してきた。
結構痛い。
「皺取れなくなるぞ」
「……痛かった」
「はは、そりゃ悪かった」
の笑い方は、子供のそれによく似ている。不思議と、見ている方を和ませる表情だ。
言い表せそうにない感情が胸の中を埋めていく。
この感覚が、俺は苦手だった。
「……苦しくなってきた」
「それは青春の苦味だよ、青年」
「違う」
離れるの手を掴んだ。
驚きで動きを止めたが、俺を見つめて沈黙する。
「お前のせいだ」
意味も判らずに悩んで、意味も判らずに苦しんで、こんなことは初めてだ。
そしてきっかけは、お前の存在だった。
お前のことを考えて、思って、ひとりで勝手に振り回されて。
「お前のことで頭がいっぱいなんだ。俺は、どうすればいい?」
は珍しく思い悩んだように視線を泳がせ、それから小さな声で俺に言った。
「ヴェイグ、それは越えちゃいけない境界線だ」
いけない、と言われると実行したくなるのが人の性だと彼は気付いていないらしい。
(Title by 確かに恋だった)
Top