「、大丈夫?」
「ん。何とか、ね」
そう言って笑うの服は所々汚れて、右腕を伝っている血が怪我の深さを物語っていた。なのに何時もと変わらない笑顔が、逆に不安を煽る。
「マオは怪我無いね、良かった」
動かせる左手で、がボクの頭を撫でた。ボクは何も言えなくて、唇を噛んで黙りこくるだけ。
戦闘中、油断したボクをが庇ってくれた。そのせいで一緒に崖から落ちて、結果、皆とはぐれちゃったんだ。
落ちる時にが咄嗟に抱きかかえてくれて、庇ってくれたから、ボクは怪我をせずに済んだけれど……。
が怪我をするくらいなら、ボクが怪我したほうがずっと良かったのに。
「結構落ちたな……、うーん……」
「あっ、フォルス使っちゃだめだヨ! 怪我だらけなんだから」
慌ててボクが釘を刺すと、が苦笑いした。フォルス使うつもりだったんだ、やっぱり! もうこれ以上無茶されたら敵わないヨ……。
そうだ、まずはの手当てをしなきゃいけない。ユージーンに教えて貰った薬草が丁度側に生えてたから、幾らか毟り取る。
「手当てするから、じっとしててヨ」
大人しくが頷いた。
擦り潰した薬草を傷に塗って、その上から丁寧に包帯を巻いていく。何とか足りたようで良かった。
手当てを終えて顔を上げると、と目があった。何時もの飄々とした笑顔じゃなく、もっと深くて優しい笑顔を浮かべている。
「ありがとう、マオ」
「そんな、元はと言えばボクのせいだもん……。あくまで応急処置だから、後でアニーに見てもらわなきゃね」
「ん、判ってる」
にお礼を言われたのが嬉しかった。本当にユージーンに感謝だよ。
腕の骨も異常ないみたいだし、良かった。この腕以外には目立つ怪我もなくて、擦り傷だけで済んでる。けれど落下の衝撃が、まだ彼の体に残っているみたいだった。ちょっと顔色が悪い。当然といえば当然なんだけれど……。
こんなを見るのは初めてだから、何だか落ち着かない。
(何か、ドキドキしてきた)
こういうのを不謹慎て言うのかな。
はいつの間にか目を閉じて、静かな寝息を立てていた。
見ているうちに、好奇心が押さえられなくなった。起こさないように、そっと近付く。
こんなにまじまじとを見るのは初めてだ。思ってたより睫毛は長いし、髪も女の人みたいにサラサラしてる。そっと髪を撫でてみたら猫の毛みたいに柔らかくって気持ち良くて、ボクの心臓がうるさくなった。
(ああ、我慢出来ないヨ!)
相手が寝ているのを改めて確認する。手を目の前で振ってみたり、ちっちゃく名前を呼んでみたり。静かに、厳重に確かめた。
それからボクは、の頬にそっとキスをした。
一瞬触れるだけのそれは、子供くさい行為だったけれど、ボクにとっては大きな一歩だ。
「恥ずかしくて燃えそう……」
誤魔化すように頭を振っていたら、遠くからボクらを呼ぶ声がした。どうやらヴェイグたちが助けに来てくれたみたい。
あと少しタイミングがずれていたら……なんて考えて、ボクは真っ赤になりそうだった。
◆◆◆
「あー良かった良かった助かったー」
は呑気に笑って、ボクの横を歩いてる。それに反してボクは、ユージーンのお説教を食らってゲンナリしていた。
「が元気そうで何よりだヨ……」
「マオほど怒られて無いしな」
「う゛~……」
笑いながらボクの頭を撫でる。気持ち良いけど、完全に子供扱いされているって判るから、少し悔しい。
「……ん、そうだマオ」
「なに?」
「良い事を教えてあげるよ」
何それ、と言い掛けたボクの額に、がキスしたのは本当に一瞬のことだった。
頭が真っ白になって、思考がフリーズして。今起きた状況を思い返して、理解して。ようやく身体中が反応する。
きっと今のボクは、トマトみたいに真っ赤な顔をしてるはず。
「なっ、えっ、ちょっ……」
「こういうのはためらわずに素早くやった方が良いんだよ、少年」
「それってまさかボクのがバレてたってこと!?」
慌てるボクを見て、は馬鹿みたいに笑い始めた。
「あはははは! いやぁ若いなぁ反応が青いなぁ!!」
「うわあああ恥ずかしくて死にそうだヨー!」
ぎゃあぎゃあ騒いで喚いて、また怪我をしてしまったボクらは、仲良く揃ってユージーンのお説教を食らった。
ボクより大人なはずのが、ボクとおんなじような子供の顔をして怒られている。
それが何だか、嬉しかった。
(Title by 確かに恋だった)
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