あのひとは、何も気にしない。
 わたしはあのひとに触れられるだけでドキドキが止まらなくて、龍亞に「熱でもあるのか!?」って言われちゃうくらいなのに。
 あのひとは、何も気にしてないんだ。

「遊星とさんは仲が良いよね」

 わたしの呟きに、遊星は「そうだな」と頷いた。あまりに早い返答で、呆気にとられる。そばで遊星の機械いじりを見ていたさんも私と同じみたいだった。

「不思議とといるのは楽なんだ。……あとは多分、俺が最初にと会ったからじゃないか」
「ああ、それはあるかも。俺にとって遊星は親鳥ってか」
「お前はひよこか」

 遊星とさんは楽しそうに笑い合う。蚊帳の外みたいで、わたしは少しさみしくなった。

「……わたしも、もっと早くさんに会いたかった」
「龍可?」
「ううん、何でもない」

 機械いじりに夢中な遊星たちに愚痴るのも申し訳ないから、わたしはソファーで静かにしていた。
 さんのことになると、遊星はたくさん喋る。表情も穏やかで、大事にしてるのが伝わってきて。ふたりの間には何かあるんじゃないかと思う。
 ……自分がとんでもないことを考えていたのに気付いた。慌てて首を振って、考えたことを外に飛ばす。
 暇になったわたしは、カードを取り出した。しばらくデュエルはしてないけれど、これはもう癖みたいなものだ。

「あ、それ龍可のデッキ?」
「えっ! あ、はい」

 いつの間にかわたしの隣にさんが座っていた。わたしのカードを興味深げに見つめている。
 さんが近い。
 わたし、絶対顔が赤くなってる。どうかさんに指摘されませんように。
 わたしがデッキのカードをめくるたび、さんはカードについて質問してくる。それに答えているうちに、少しずつ気持ちも落ち着いてきた。
 答える度に「そうなのかー!」とか「すげえなあ!」と目を輝かせるさんは、とても可愛くて。わたしより年上のお兄さんには思えなかった。

「おぉ! この子かわいい!」

 一際目を輝かせたさんが気に入ったのは、クリボンだった。
 茶色くてふわふわしてそうな見た目に、くりくりの瞳。確かにクリボンは可愛い。けれど、男の人が気に入るなんて、ちょっと意外だった。
 そんなわたしの疑問に気づいたのか、さんは笑いながら話し出す。

「俺は男のくせに可愛いものが好きだからな。妹に感化されたんだよ」
「妹さんがいるんですか?」
「うん、龍可に負けないぐらいかわいかったぜ」

 少し切ない笑顔に、触れてはいけない何かを感じた。
 さんに妹がいたなんて知らなかった。よくよく考えたらわたしは、さんのことをちっとも知らない。同じようにさんは、わたしのことを知らない。
 もっと、知り合いたいな。
 ちくりと胸が痛む。
 さんのことを考えると、いつもこう。でも、止められなかった。
 大好きなひとのことを想わない女の子なんて、きっといないもの。

「可愛いなークリボン……。龍可にぴったしだよな。可愛いと可愛いの組み合わせはやばいな。な、遊星!」
「そうなのか」
「おいテキトー過ぎだぞ遊星。なぁ龍可! 龍可は可愛いよな!」
「え、えっ!?」

 真正面から「可愛い」なんて言われたら、どうしたらいいのか判らない……!!
 真っ赤になって慌てるわたしに、はたと気付いたさんは苦笑した。

「ごめんごめん。なんか慌てさせちゃったか」
「い、いえ……」
「まああれだ。可愛いは正義だってことな」

 よく判らなかったけど、さんに頭を撫でられたら、頷くしかなかった。
 子供扱いというより恐らく無意識から起きたであろうさんの行動に、わたしは文句も言えない。
 この人の手は、優しすぎる。
 いっつもそう。
 わたしが意識してさんに向ける想いは、いつもさんの無意識の優しさに流されて、なかなが届かない。
 それでも今ふたりで向き合えているだけで、わたしは満たされるような気がした。


「ありがとう、さん」


 笑ってさんを見上げる。
 さんはいつもより深い笑みで私を見つめ返し、どういたしまして、と呟いた。

「俺もに撫でて貰いたいな」
「馬鹿遊星。俺が頭をなでなでするのは龍可限定だ!」

 今のところ、この手が触れてくれるのは、わたしだけの特権らしい。


企画「Antidote」さまに提出

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