「龍可?」
「っきゃあ!」
私は思わず飛び上がった。がばりと顔を上げると、真正面にはさん。心臓が跳ねた。
大きな袋を抱えて、夜空みたいに黒い瞳でわたしを見つめている。
さんは苦笑いした。
「悪いな。驚かしちゃった?」
「いえっ、ただ、わたしがボーっとしてただけですから!」
「そっか? でもごめんな」
謝らせてしまったことに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
俯いたわたしに、さんは言った。
「今ヒマ?」
「え?」
「龍可に渡したいものあんだけど、いい?」
言いながらさんは、抱えた袋を見つめる。それから私を見つめた。ドキドキしながらも、努めて平静を装って答える。
「もしかして、その袋ですか?」
「そう! 大丈夫かな、すぐ終わるから」
「は、はいっ」
「良かった。じゃあ行こうかっ」
さんはご機嫌そうにわたしの手を掴むと、鼻歌まじりに歩き出した。
さんの、何の躊躇いもない接触に、わたしはまた顔が赤くなるのを感じた。でも、すごく幸せだった。
リビングについたわたしとさんは、並んでソファーに腰を下ろした。
「早速、龍可にプレゼント」
わたしの膝の上に、さんは袋をのせた。大きさの割にかなり軽い。
さんを見る。開けてみて、と視線で訴えられて、促されるままに包みを開いた。
「わぁ、クリボン!?」
中身はクリボンだった。……違う、本当にクリボンそっくりだけど、ぬいぐるみ。触り心地はすごく良い。くりくりした瞳に茶色の毛並み。すごいクオリティ……。
恥ずかしそうに頬を掻きながら、さんは話した。
「前に龍可のカード見せて貰った時に一目惚れしちゃってさ、作ってみた。どうかな」
「すごい可愛いです。クリボンにも見せてあげたいくらい!」
「良かったら貰ってやって」
「えっ!?」
こんなにかわいいものを貰って良いのかな。売り物みたいに、綺麗なのに。
さんは笑顔だ。
「龍可が喜んでくれたらなぁ、って思ったから」
「あ、ありがとう、さん」
「どーいたしまして!」
さんは本当に嬉しそうだった。わたしの頭を撫でる手つきは優しくて、つい頬が緩む。
胸の奥があたたかい。
わたしはそっと、貰ったぬいぐるみを抱き締めた。
「本当にかわいい……、あっ」
わたしはふと思った。
つい普通に「クリボンにも見せてあげたい」なんて言っちゃったけれど、さんには精霊が見えることを話した記憶がない。
けれどさんは特に何も言うわけじゃなくて。
……わたしは、勇気を出して切り出した。
「あの、さん」
「ん?」
無垢なさんの瞳を見上げながら、一生懸命伝える。
「わたし、あのね。……カードの精霊が見えるの。それで、クリボンにも、とか言っちゃって……」
それきり言葉に詰まったわたしは、俯いた。
どうしよう、と思っていたら、ふわりと頭に何かが触れる。すぐに判った。優しいさんの手だ。
「龍亞から精霊のはなし、聴いたよ。すごいな。羨ましいよ」
「えっ……」
顔を上げたら、さんは笑ってた。顔をくしゃくしゃにして、やんちゃな男の子らしい笑顔だった。
「俺、お化けならたまに見えるんだけど。どうせなら龍可みたいに精霊見たかった」
純粋な思いから紡がれるさんの言葉。裏表がなくて、まっすぐ胸に響いて、心地いい。
「さんみたいに純粋なひとなら、見れるかも」
「だと良いなぁ。触れたらなぁ」
「ふふっ、気持ちいいだろうなぁ……」
呟くさんに笑って返す。
ぬいぐるみを抱きしめながら、わたしはさんと他愛ない話を交わした。
わたしが悩んだのもためらったのも意味がないくらい、さんは淡白で、単純で、まっすぐで。
純粋に精霊という存在に目を輝かせたさんのことを、わたしはますます好きになった。
(さんになら、なんでも打ち明けていい気がするの)
今度会いに来るときには、わたしのカードも一緒に。
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