「違う、お前はジャックじゃない」
何故オレを否定する?
一体何者かは知らんが、やたら勘に障った。
声は震え、今にも泣きそうなまでに怯えている。なのに。
どうしてそんなにも揺るぎない眼差しでオレを見つめ、否定することができるのだ?
「ジャックは、そんなに怖い目をしてない」
貴様がジャック・アトラスの何を知っているというのだ?
首を絞める力を強くしてやった。かは、と声とも息とも取れる音を漏らし、顔を歪めるそれ。
「貴様は、誰だ」
「、だよ」
やはり知らぬ名前だ。
は無抵抗だった。哀れむようなものを孕んだ瞳に、何かがざわつく。
思考するよりも先にオレはを離し、自分の胸を押さえた。いくら押さえつけても、焦げるようなざわつきは静まらない。
「でも、何でかな」
喉をさすりながら、掠れた声でが呟く。
「そうして俯く顔とか、まるで本当にジャックみたいだよ」
あくまでオレを、ジャック・アトラスではないと否定するのか。
怒りとは違う不可解な思考が渦巻き、オレは紡ぐべき言葉を見失った。
は、いささか色の悪い顔で笑う。胸のざわつきは強くなる。だが、もう少し見ていたいと思う表情だった。
すっと伸びてきた両手が、オレの髪をくしゃくしゃに撫でる。
「意味わかんねえけど、本当にそっくりだな」
「……そうか」
「ジャックみたいだけど、お前は、ジャックとは違うひとだよ」
繰り返される否定の言葉。
無防備なの不可解な行動に、何故オレは抵抗もせずに身を任せているのだろうか。
「ならばオレは何なのだ」
「……いざ言われると、ジャック以外の呼び方が思い付かないなぁ」
不思議と怒りは生まれない。
心地よい手の感触に、目を細める。ちりちりと胸の奥が怪しい音を立てたが、気づかないふりをした。
「」
呼べば、「どうした?」と黒い瞳がオレに問い掛ける。
「貴様は、オレが嫌いか?」
一瞬だけが目を見開く。
それから、労るような微笑みを浮かべ、またオレの髪を撫で始める。
「大丈夫。誰も“嫌いだ”なんて言ってないから」
髪を撫でていた手のひらが、動きを止めた。
「そんな泣きそうな顔しなくていいんだぞ」
オレが泣きそうだと?
馬鹿を言え。
キングたるこのオレが、何故こんな状況でそのように情けない姿を晒さねばならない?
反論の言葉はすらすら浮かんだが、音にならなかった。
「」
中心で何かが軋む。その違和感に抗いながら、オレは両手を伸ばした。
腕の中に収めたの体は、薄く、ちっぽけだった。
それでも、オレとは違うぬくもりがあった。オレとは違う鼓動があった。
形のない苦味が、思考を満たす。
「オレがオレでなければ、貴様と繋がることができたのか」
何も言わずに、は笑う。
それでもオレは、ずっとの名前を呼んでいた。
軋みは増していく。
回路を焼きながら。
オレを、蝕む。
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