「頼む、パートナーになってくれ」
「えっ!?」

 散歩していたを呼び止める声。は目を丸めて振り向いた。声を掛けた方も、相手がと気付いて目を丸めた。
 特徴的な髪型に、左目の下から雷のように刻まれたマーカー。遊星である。

「ゆ、遊星?」
「まさかだったとは……。帽子もラビモンもいなかったから……いや、良いんだ」

 状況を理解できていないに、遊星は改めて話した。

「今、デッキは持ってるか」
「一応……」
「じゃあ大丈夫だ。俺とタッグを組んでデュエルをしてくれ」
「は!?」

 はぎょっとした。
 ジャックたちに教わりながらデッキこそ組んでいるものの、実戦経験は皆無に等しい。
 最近ようやくデュエルディスクを手に入れることもできて、持ち歩くようにしていたことが今更悔やまれた。

(くそー、持ってないと逆に浮いちゃうからって周りを気にした自分を恨みたい!)

 胸中で吐き捨てるに、遊星は更に語りかける。

「タッグデュエルと言っても普通のデュエルと変わらない。前に説明しただろ?」
「お、おう……?」
「頼む」

 頼まれると断れない質のは、結局折れた。が頷いたのを見て、遊星はの手を引きながら踵を返す。

「待たせたな、カジカ」
「ううん大丈夫」

 は遊星と話す少年・カジカを見つめた。
 赤い帽子を深めに被り、そのつばで目元は隠れている。だが、ちらりと覗いた眼差しはまっすぐだった。遊星たちと同じくイケメンの部類に入るに違いない。
 カジカの隣にはアキの姿。どうやら彼とタッグを組んでいるらしい。いささかアキが自分を見つめる視線に鋭さがあるのは気のせいだろうか。
 はやや尻込みした。

「大丈夫だ、。カードを信じろ。そして、俺とお前の絆を信じるんだ」
「お、おう! 任せろ、信じることなら大好きだ! ……つかさ」

 デュエルディスクを展開しながら、は遊星を見た。

「俺より、他の人に声を掛け直した方よかったんじゃない?」
「ずっととデュエルしてみたかったんだ。むしろ良い機会だと思っている」

 遊星がを見つめ返す。

「戦う前からなんだが……勝ち負けより、が俺とタッグを組んでくれたことが嬉しい」

 が感動しかけたのも束の間、相手側から伝わる冷気に似た何かに、声は詰まった。



◆◆◆



「完敗だわ……」

 ふう、とアキが息を吐いて俯いた。カジカも「そうだね」と同調してはいたが、楽しそうである。
 は目を丸めた。デュエルディスクを見て、遊星を見て。またデュエルディスクを見てから遊星に視線を移す。
 戸惑っているに、遊星が優しく微笑んでみせた。

「ありがとう。お陰で勝てた」
「うお、おお……!! うん! こちらこそありがとう!!」

 震えているの手を取って、なだめるように遊星が深く頷く。
 初めてのデュエルとそれ以外のとある圧迫感に、は必要以上に緊張してしまっていた。

「ええと、

 そんなに、帽子を被り直しながらカジカが話し掛ける。

「きみ、俺と同じかもしれないね」
「え?」
「シングルより、タッグ向きなのかもしれないということ」

 カジカはニッコリ笑った。

「俺、父の影響でプロのタッグデュエリストを目指してるんだ。実際、シングルじゃ大した腕じゃないかもしれないけど、タッグには自信がある」
「でも負けたじゃない……」
「ほら、運も実力のうち」
「……そうね。でも私が冷静になりきれなかったからかもしれないわ。ごめんなさい」

 カジカの励ましに、ようやくアキも顔を上げた。アキの謝罪にカジカは笑って首を振り、「俺もトラップ使うタイミングとちったし」などと話している。
 は遊星に手を握られたまま、その光景を眺めていた。

「……俺も、やばかったよな」
?」
「殆どカード伏せてただけだし。ビギナーズラックって奴だ」

 神妙な顔で反省するに、遊星は目を細めた。

「そうやって考えられるなら、大丈夫だ。は強くなれる」
「遊星……」

 頷いて笑う遊星の姿には感動していた。が。

「どうせならもタッグデュエリスト目指そうよ!」

 カジカがニコニコと割って入る。
 そして、遂に尋ねた。

「で、遊星は何時までの手を握っているのかな?」
「あ」

 遊星はようやく気付いたらしい。だが、手を離す様子はなかった。
 ゆっくりを見つめる遊星。惚けたように薄く開いた口が何だかあどけない。
 は首を傾げた。何かあったのだろうか、と。
 遊星は……ほんのり顔を赤くして呟いた。

「……何だか、落ち着くんだ」

 の手は不思議だな。
 そう言って笑う遊星に対して、とカジカの顔色は急速に悪くなっていく。
 ――若干一名の視線が怖い。
 薔薇の棘が冷気を伴いながら肌をちくちく刺していくような感覚に、二人はひたすら耐えていたのだった。

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