「えー、今日はみんなの新しいお友達をご紹介します」
担任である深影の明るい声が教室に響く。
キャラクターは濃いながらも基本的にしっかり者であるクラスの面々は、静かに担任の声に耳を傾けていた。
「はい、入ってきて」
がららと古典的な戸車の音が鳴る。深影に促され、転校生は教室へと踏み入った。
暖色系のニットキャップに、学ランの下に着込んだ赤いパーカー。真っ黒な癖っ毛と瞳。
平凡な筈のその姿は、このクラスでは逆に浮いていた。
「初めまして! です。以後よろしく!」
そして、見るからにあくの強いクラスメートに怯むことなく、彼……は笑った。
◆◆◆
は内心どぎまぎしていた。このクラスメートたちと自分は馴染むことができるのか、と。
だが初対面の人とも一気に馴染むのは彼の特技でもあった。
「ええっと、よろしく!」
「……ああ、よろしく」
早速、隣の席になった男子に声を掛ける。教壇の前でクラスを見渡したときからやけに目を引いていた男子だ。髪型がかなり独創的だったのである。そのためは、先のクラスの自己紹介で聞いた彼の名前を一発で記憶していた。
「遊星くんだよな? 遊星って呼び捨てでも良い?」
「構わない」
「ありがと! 俺のことも呼び捨てでいーから」
遊星はこくりと頷いた。
静かな彼のリアクションに、無口なタイプなんだろうな、とは受け止めた。だとしたら自分はいささかうざい接触の仕方をしてしまったかもしれない。
嫌われやしてないか、と少し不安になった。
だがそれも杞憂に終わる。
一時間目の授業、国語が始まったときだ。
はノートを引っ張り出しながら、教科書が無いことに気付いた。
――ああ、そういや教科書の準備が間に合わなかったんだっけ。……エアー教科書で乗り切るか?
が思案していたのはほんの一瞬だった。
隣でがたんと物音がする。
「うぇ?」
遊星だった。がたがたと机を動かし、の机にぴったりとくっつける。
目を丸めるに、遊星は言った。
「教科書、無いんだろ? 一緒に見よう」
柔らかい微笑みだった。
はこくこくと頷いて答える。
それから遊星は二人の間に教科書を広げ、すぐに視線を教壇の方へと移した。
は戸惑いながらも遊星を見た。
「あ、ありがとな。遊星」
遊星はちら、とを見た。の言葉に答える代わりに小さく笑って返し、また教壇へ視線を戻す。
はいたく感動していた。
(すげえ……、見た目どころか中身までイケメンじゃねーか! 俺が女の子だったら完璧惚れてるわ!)
その後、は教科書の朗読を当てられたものの惚けていたせいで判らず、またもや遊星に助け舟を出されて事なきを得たのだった。
◆◆◆
転校初日は、比較的平和であった。質問責めを食らうこともなく、しかし友好的に声を掛けてくれる面々のお陰で、一気に打ち解けることができた。
昼には、遊星の友達であるクロウに誘われ、競争率が馬鹿のように高い購買の真っ只中に突入した。
一瞬だけ、その人ごみの中で死を覚悟したのは内緒である。
何とか人気のカツサンドを入手したに、「お前なかなかやるじゃねーか!」とクロウは賞賛の声を送ってくれた。
死を覚悟したのは無駄では無かったようである。
放課後には、やはり遊星の友達である鬼柳に誘われ、部活を見学した。
彼が率いるという軽音楽部には、遊星とクロウもいた。それからやたら背の高いクラスメート、ジャックの姿。
部活を見学し、会話を楽しみ、彼らの演奏にはしゃぎ、は有意義な時間を過ごすことができた。
そして、“サティスファクション”という単語が頭に焼き付いた。
そんなこんなで家についた頃には真っ暗で、すぐにベッドへ飛び込んだ。
制服を脱ぐのも忘れて、目を閉じる。
「うん…、満足……」
は、ゆるやかに夢の世界へ身を投じた。
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