優しいやさしいあなたの声に、私は満たされていく。
 名前も知らない間柄だけれど、私達はよく会って、話して、時間を共有する。
 彼は私が“魔女”と呼ばれていたことを知らない。彼は程よく無知で、気が利いて、私を楽しませてくれた。

「あなた、私が怖くないの?」
「怖かったら一緒にいないよ」

 嘘がつけないひとだとは私も判っているから、彼の言葉を素直に受け取る。
 彼は公園が好きらしくて、私もよく彼について行った。2人で並んでベンチに腰を下ろして、のんびり陽を浴びる。
 「光合成できそう」とか呟いて頬を緩める姿はかわいらしかった。
 天気が良いのに人気の無いここは、まるで私たちの為だけに用意された庭のよう。
 あたたかい風が、頬を撫でていく。
 彼が仕事をしていることは聞いているけれど、私に詳しいことは話してくれなかった。
 同じように私も、彼には学生であることだけを告げ、今まで私がしてきたことを話しはしなかった。
 私には、話す勇気が無かった。
 底抜けにお人好しな彼のことだ。私を嫌うことはなくても、困ってしまうのが目に見えている。

『無理に話さなくて良いよ。俺と一緒にいてくれるだけでもう嬉しいから』

 臆病で狡い私を、彼は当然のように笑って受け入れる。そして、互いに深入りせず、心地良いラインを漂っていた。
 そのくせ私の中で彼の存在は、大きく強くなっていって。
 日差しに目を細める彼の右肩に、そっと頭を預けた。
 彼は小さく笑うだけで、なにも言わない。
 大して年は変わらないと思うけれど、彼の黒い双眸は真っ直ぐで、どこか力強さがあった。
 あとすこしでも深く、あなたの中にすべりこめたなら。
 とくんとくんと緩い脈をうつ自分の鼓動を感じながら、私は口を開いた。

「私、あなたが大好きよ」
「ありがとう」

 あっさりと返してきた割に彼の顔は赤い。

「ねえ、お願いがあるの。私の名前を呼んで」
「名前、教えてくれる?」
「アキ、よ」
「判った。アキだね」

 笑いながら頷く彼の可愛さったらなかった。
 甘える猫のように私は彼にすり寄って、彼はやっぱり笑いながらそれを受け入れてくれる。

「俺も、教えて貰ったからには言わなきゃね」
「……うん」
「俺は、。よろしくね、アキ」
「ええ、

 胸の中で、覚えたての名前を繰り返す。。ああ、なんてあたたかい響きだろう。柔らかい花弁に包まれ、蜜を貪る蜂の気持ちが少しだけ判った気がした。
 いつまでも、こうしていたい。差し込む木漏れ日に微睡んで、じっと彼に寄り添ったまま逝きたい。
 怖いのも辛いのも、もうたくさん。私だって幸せに生きたいの。
 彼のそばでなら、許される。

「アキ、寝ちゃったのか?」

 程良く愚かな彼は、私を許してくれるの。ずっとずっと愚かな私を許してくれるの。疚しい私を、真っ黒なベールでくるんで抱えてくれるの。
 だあれにも見えない。
 だあれにも知られない。
 だあれにも、怒られないの。
 。あったかいわ、やさしいわ。、大好きよ。なによりも大事よ、大切よ、。ああ、なんて心地良いのかしら。あなたが私を覗き込んで心配してくれるのを判っているから、私はわざとゆっくり答えるの。

「ちゃんと、起きてるわ」

 そっと彼の腕を掴んで、服越しに爪を立てる。は何も言わない。
 このまま食い込んで、爪の先からあなたと溶け合ってしまえたらよかったのに。

「大好き」

 それだけが、口惜しい。

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