黄色のニットキャップを被り、制服の下に赤いパーカーを着込んだ。短いはねっ毛と、髪と同じ黒の瞳をしたの出で立ちは、パッと見ただけでは女子とは判りづらい。制服のスカートを除けば、はわざわざ男物の服や雑貨を選ぶという話である。
何故は、女子でありながら男物の服を選ぶのだろう。
買い物の帰り道、気になって遊星が訊ねると、は頬を掻きながらこう言った。
「私さ、あんま女の子っぽいの似合わないから……。だったらもう男の子みたいにしちゃえ! って思ったんだよ」
「十分には女の子に見えるが……」
「遊星はそうでも、私がいたとこではそう思ってくれない人のが多かったんだ」
私がいたとこ。それは遊星には知り得ない別の世界のこと。
は自身も判らぬうちに、このネオ童実野シティに来ていたのだと言う。はデュエルを知らなかった。この世界に必要不可欠なデュエルを。信じられないが、と話せば話すほど、が別世界の住人であることを遊星は思い知った。
本当には、この世界のことを何も知らない。逆に遊星は、のいたという世界のことを何も知らない。が懐かしみ、恋しく思うその世界のことを。
遊星は密かに拳を握り締めた。
「の世界の奴に、俺から言ってやりたいな。がどれだけ女の子らしいのかを」
「恥ずかしいな遊星……。その気持ちは有り難いけど」
ほんのり頬を染めながらは笑った。
「まあ、私はこれで困ってないから平気だよ。なんかもう男の子になりたい。男同士の友情に憧れる!」
「女同士の友情はダメなのか?」
「皆が皆、アキちゃんや龍可ちゃんみたいなら良いけど、私のいたとこじゃあ色々面倒くさくて……」
彼氏がどうの、グループがどうの、とはぼやき始めた。なかなか大変そうだ。が愚痴を溢すというのも珍しくて、遊星は聞き役に徹していた。
粗方話し終えると、はハッとしたように顔をあげた。
「私ムチャクチャ愚痴ってたよね? ごめん……。つい遊星には色々言っちゃうな」
「構わないさ。それでお前の気が晴れるなら幾らでも聞く」
遊星がそう返すと、は恥ずかしそうに笑った。
「申し訳ないけど、正直すごい助かる。あんがと!」
その笑顔を見て、遊星はと初めて出会った日のことを思い出した。
道の端でうずくまり、わんわんと泣いていた。パニックになっていて支離滅裂なことを叫ぶを、ただ事ではないと察してポッポタイムに連れ帰った。泣き疲れて爆睡したのち幾分落ち着いたと話してみると、噛み合わないことが多くあり、がこことは違う世界から来たであろうことが判明した。
遊星が「元の世界に戻れるまでここにいたらいい」と声を掛けると、心から嬉しそうに笑ったの姿。
――あの時の笑顔にそっくりだ。
つられた遊星の顔にも笑みが浮かぶ。
すっかり元気になったは、提げた買い物を揺らしながらルンルンと歩く。しかしふと立ち止まると、遊星を振り返った。
「あれだ、遊星」
「ん?」
呼ばれて遊星がを見ると、は少し照れ臭そうにこう言った。
「いっぱい聞いてもらってるぶん、私も遊星が愚痴を言いたいときはいっぱい聞くから。その時は、気兼ねなく言って」
そのはにかんだ笑顔に、遊星は釘付けになってしまった。
は言うだけ言って、すたすたと歩き出す。惚ける遊星を置いて、先へ先へと進む。
ようやっと我に返った遊星は、慌ててを追い掛けた。
今までに感じたことのない胸の高鳴りに混乱しながら、一気にとの距離を縮める。
彼女の傍に、出来る限り長く近くいるために。
「」
「なに?」
「……ありがとう」
遊星がそう言うと、また照れ臭そうには笑っている。
いつか見れなくなってしまうであろう彼女の一瞬一瞬を、彼は強く記憶に焼き付けた。
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