夏休みもあと3日を残すばかりとなった、そんな日の夜。
一同は、美鶴の召集を受け、4階の作戦室へ集合していた。幾月から“話がある”とのことらしい。
「全員、いるみたいだね。さ、入って」
メンバーの集合を確認した幾月が、座ったまま扉のほうに声を掛ける。
「失礼します」
きっちりとした挨拶の後に入ってきたのは……天田であった。皆が目を丸め、驚くのとは対照的に、静かに毅然としたまま立っている。
状況を掴みあぐねているメンバーを見回しながら、幾月は話し始めた。
「色々調べさせて貰った結果、彼にも十分な“適性”があると分かってね。早速、仲間に加わってもらおうと思って、みんなに集まってもらったんだけど……」
「ま、待って下さい理事長」
慌てて美鶴は口を挟んだ。普段は戦力を増やすことに意欲的な彼女にしては珍しい。天田の加入に乗り気ではなく、寧ろ出来ることならば避けたいように見えた。
「彼は、まだ初等科です。それに……」
「それに……何かな? 彼のペルソナ能力は確かだよ。鍛えれば、十分、戦力になり得る」
「そいつ自身は、いいと言ったんですか」
今度は真田も加わる。ふたりに挟まれ、幾月は少し困ったように笑った。
真田たちが更に言い募りそうな空気を破ったのは、渦中の少年、天田であった。剣呑な空気を察し、彼はあえて笑顔で話す。
「僕の方からお願いしたんです」
「自分から……!?」
は思わず零した。
前々から落ち着いて大人びているとは思っていたが、あの戦いに自ら志願するほどの肝の据わった少年だったとは。「スゴいな、天田くん」無意識のうちにはぼやいていた。ホントだぜ、と向かいに座る順平が小さく頷いている。
幾月以外の全員が、天田の発言に驚いていた。
静けさの中、天田はぽつりぽつりと語る。
「僕にだって出来ることがあると思うし、それに……僕になんで“力”が目覚めたのか、ようやく、分かった気がするんです」
どことなく思い詰めるような呟きだったが、たちは上手い言葉が出てこず、ただただ彼を見つめるだけ。
そんな天田を一瞥したのち、幾月はやんわり語りながら皆を見た。
「とまあ、そういう事。だから、お願いさせてもらったんだ」
「足を引っ張らないように頑張ります。宜しくお願いします!」
「……よろしく」
「はい!」
奏夜の声に、天田はきらきらとした笑顔で返事する。先の思い詰めた表情が嘘だったかのようだ。
そして話の内容が内容でなければ、子供らしい笑顔に頬が緩んだかもしれない。
固い空気の中、順平が笑いながら口を開いた。
「まあ、いんじゃないっスか? オレらもついてる訳だし! たまにゃキツい時もあっけど、やるからにゃ、頑張れよ」
こんなときに順平の気さくさには助けられる。は内心、順平の明るさに感謝した。
頼もしい順平の言葉に、やはり天田は笑顔で頷き、返事をしたのだった。
◆◆◆
――影時間、タルタロス内部。
奏夜はちらりと後ろを振り返った。
意気込み十分な天田に押されるようにして探索に乗り出したものの、やはり彼のことが心配なのである。
メンバーは、天田の他、ゆかり、。
真田か美鶴に入って貰って天田の補助をしてもらおうと最初は考えた。だが、あの二人が天田の加入への戸惑いを拭えていなかったため、この面子でタルタロスに挑んでいる。
階層も既に踏破済みのやや低めの場所を選んだので、問題はないだろう。
ゆかりとのサポートも、経験者なだけありしっかりしている。
天田の動きも悪くなかった。初心者とは思えない落ち着きぶりだ。
は素直に感心しながら、天田の肩を叩いた。
「天田くんすごいじゃん。もしかして練習とかしてきてたの?」
「は、はい。殆ど独学なんですけど……」
「俺も仲間だよ天田くん。刀なんて殆ど使ったことない」
「殆どなんですか」
「じいちゃんちで木刀なら使った」
「家で木刀使うって、どんな状況よ……」
ゆかりとの面倒見の良さも手伝って、雰囲気は良好だ。
しかし奏夜の心は晴れなかった。
(天田まで戦わせるのは、やっぱり頷けないなぁ)
何だか強引な気もする。たとえ本人が望んでいるからとはいえ、危険な戦いに引き込むことは、正しいのだろうか。
――そんなこと言ったら、俺たちのしてることが本当に正しいかも判らないけどさ。
口に出したらはり倒されそうな考えが、奏夜の頭に過る。
いくら倒してもきりのないシャドウ。
12体の大型シャドウと対峙した先に、本当に希望はあるのだろうか? 未知の存在であるシャドウに対する手立てなど、現実に有り得るのだろうか? ペルソナを使役し、戦い、それでも溢れる奴等を、本当に消し去ることが出来るのか?
悩みながらも、信じてやるしかない。
不意に奏夜は、満月が近付くと現れる少年のことを思い出した。
世闇に浮かぶクリアな碧眼。囚人のような服。
満月に現れるシャドウを“試練”と呼び、綺麗に笑うあの少年の姿を――。
(はやく、終わらせなきゃ)
ひっそり意気込む奏夜の耳に、の声が響く。
「敵さん伸びてるよ、まとめてやっちゃうか!?」
「――うん」
総攻撃を仕掛ける前に、一瞬だけ天田を顧みる。
大人びた双眸のなか、僅かに暗い光が浮かんでいるような気がした。
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