人だかりと歓声。
目まぐるしいアトラクションの数々。
向こうには、子供に風船を配るアニマルキャラクターの姿。
は茫然とし、目を丸めた。
「これが遊園地かぁ」
テレビや誰かの話から、どういう場所かは知っていたが、実際に来たのは初めてだった。
が遊園地に来たきっかけは、バイト先の店長から、近くの遊園地の割引券をたんまり貰ったことである。そして折角だからと皆を誘ってみたら、ノリノリで、早速行く事となったのだ。
は深く店長に感謝していた。初めての遊園地にたくさんの友人とともに来れたのは、何より店長がくれたこの券のお陰。たくさんお土産を買っていこう……。
「うー……気持ち悪ぃ……」
今現在は、メンバーのひとり・順平がジェットコースターで気分を悪くしたため、皆でゆっくり水分補給中である。
フリーフォールやバイキングなどの“絶叫系”のフルコースは、流石に厳しかったようだ。言いだしたのは誰だったか。ひとりほくそ笑んでいるリーダーだったような気がする。
そんな中、遊園地を満喫しながらしみじみと真田が口を開いた。
「なかなか楽しいものだな、遊園地というのも」
「皆でってのがまた良いですよね。本当にありがとう、くん」
「俺、割引券貰っただけだし。風花ちゃんたちこそ、付き合ってくれてありがと」
笑いながらは返し、紅茶を飲み、ふうと息を吐いた。
絶叫系は一通り巡ったし、お化け屋敷も男女に分かれて入った。この際はも一応男子組に入り、体験してきた。驚かすための施設なのだから怖いのは当然なのだが、あちこちで上がっている女性客の悲鳴の方がよほど心臓に悪かった。
いい加減、まったり巡って、理事長たちへのお土産も買って行かなければ。というか何故スタートが絶叫系だったのだろう。未だに疑問である。
がしみじみとしているうちに、順平も復活したようだ。
「うーし……ふっかぁーつ!」
「じゃあもう一回フリーフォール行くか」
「え」
「うそうそ、俺もやだし」
「こんにゃろー、奏夜てめっ、びっくりしたろ!」
わいわい騒ぐ順平と奏夜を、真田は先輩らしい顔で見守っていた。
女性陣もおかしそうに笑っている。
穏やかな友人たちとの時間を噛み締めるように、は手を握った。
「もうだいぶ、巡るものも巡ったよね。どうしよっか」
「俺、桐条先輩が回すコーヒーカップ乗ってみたーい」
「、先輩本当に加減判らないから後悔するわよ」
「ゆかりちゃん顔面蒼白だったよね」
ゆかりと風花が笑い合う横で、美鶴は些か恥ずかしそうに目を逸らす。普段はクールビューティーなあの先輩も、相当楽しんでくれたらしい。コーヒーカップではしゃぐなんて可愛らしいではないか。
普段から自分を追い詰めるように歩を進めて、息が詰まりそうな美鶴の姿は、見ていて苦しい時もある。
少しでもそんな事を忘れて笑ってくれていたなら、誘ったこちらも嬉しかった。
「そんじゃあさ、最後はやっぱ観覧車っしょ」
「途中で土産買おうな。観覧車乗ったら満足で忘れてっちゃいそうだ」
「さんせーい!」
一行はゆっくりと歩き出す。
地図のとおりに歩くと、5分足らずで土産屋に着くことができた。
各々に土産や自分の思い出の品を確保して、一段落。そして一行は、観覧車近くの細工屋へと寄った。まだ時間に余裕がありそうだから、とが先導したのである。
店へ入るなりたくさんの硝子細工や小物が視界いっぱいに並んでおり、きらきらと眩しい。
ゆかりや風花の顔が、細工たちに負けないほど輝いている。
「これ、可愛い」
「わぁほんとだ。風花に合うね、こういうの」
「そ、そうかな? ありがとう。……あ! このピンクの、ゆかりちゃんっぽいね」
硝子で出来た動物の置物を見て、わいわいと楽しそうに話すふたりに、美鶴もそろっと加わる。
「ほう、良く出来ているな……」
「これは桐条先輩っぽいかも」
「ほんとだ! 綺麗だね」
「そ、そうか……?」
そして照れる美鶴の横に、そっと奏夜が歩み寄り覗き込む。
ぱっと見れば女子が四人いるかのような中性的な顔立ちを改めて実感させつつも、眼差しには男らしさが満ちている。彼はその男らしさを言葉にも漂わせながら三人を見た。
「お三方、良さげなの見つかったみたいだね?」
「え? あ、奏夜くん……」
「よし、預かっちゃいます」
奏夜は返事をさせる間も与えないスピードで三人が選んだ硝子細工を受け取った。そして真っ直ぐにレジへ向かった。
少しして、ぽかんとする女性陣の元へ戻って来た奏夜は、「はい」と三人へ買って来た細工を渡していく。
「俺から三人へのプレゼントということで。はい受け取って」
「リーダー……」
「良いのか?」
「どーぞどーぞ」
「ありがと、奏夜くん」
ふわりと笑う奏夜に、ゆかりたちは少し顔を赤くしながらお礼を言っていた。
……そして、そんな様子を、順平と真田はぼんやりと見つめていた。
なんなんだ、あの完璧なイケメン行動は。なんなんだ。
奏夜に対する沢山の感情を滲ませながら、順平は真田に話しかけた。
「すげーな奏夜の奴、あんなあっさりプレゼントしちゃいますかねー」
「美鶴たちも喜んでるな」
地味に話が噛み合わない。
俺が重点的にお話したいのは、そこじゃないんです真田さん。
順平は歯痒さを感じると共に、相手を間違えたことを悟った。
「……えっと、まあ、そうっすね……」
そんな順平は、話が通じそうなに振り返ろうとして……はたとした。
「あれ、ドコ行ったんだ?」
「まさか迷子か?」
順平の声に、慌てて真田が視線を巡らせる。
だが、慌てるまでもなくの姿はすぐに見つかった。
「ああ、いたぞ。ほら」
真田が指差した方には、じっと細工と向き合うの姿があった。
何時になく真剣だ。探検の時ですらあんな顔は見たことが無い気がする。そして、ああしていると、本当に女子と変わらないものだと実感させた。
二人は、細工コーナーの一角で真顔で悩むへと歩み寄った。
「、何見てるんだ?」
「おおっ、先輩。順平くんっ」
行き成り呼ばれて慌てたらしく、焦った声を上げながらは細工を戻した。
が戻した品を、真田と順平が自然と目で追っていく。
細かな装飾のついた、綺麗な箱だ。手に乗るぐらいの小ささで可愛らしい。どうやらオルゴールのようである。コーナー全体に、似たような小さなオルゴールたちが並んでいた。
ほう、と真田は瞬きした。
「これを見てたのか」
「あー、はい、うん。むっちゃ綺麗な音で……可愛いし」
小さく恥ずかしそうに微笑むに、順平はふんふんと頷く。
「へえー、って趣味も女っぽいんだな。細工屋に寄りたかったのも自分の趣味かあ」
「うふふふー、そりゃ人生の半分以上こんなんだからねー。って順平くんその言い方なんか引っ掛かるぞー? 俺は女性陣に気を遣って寄ってみたのよー?」
「あははー? その割に楽しそうよー?」
「笑っても誤魔化せねぇよー? まあ俺も好きなんだけどねー!」
二人のやりとりを尻目に、真田はが見ていたオルゴールを手に取った。まじまじとそれを眺め、何かを確認し、少し考えると、そのまま踵を返して歩き出す。
勿論順平とはそれに気付かない。挙句には互いにオネエ口調で良く判らない舌戦を繰り広げていたのだ。あまりに内容が無さ過ぎて、互いに喋った先から忘れてしまうほど下らなく、しかし、友達ならではと言ったやりとりであった。
「――」
「はい?」
二人のやりとりが治まった頃、戻って来た真田が、に包みを渡した。どうしたことか、可愛らしいラッピングが施されたそれに、は首を傾げる。
そしてその時ようやく二人は、真田がいつの間にか行動していたことに気付いた。
「先輩? あの、これ……」
「欲しかったんだろ?」
促すような真田の言葉に、は目が点になった。
いやまさかそんな。
慌てて包みをほどき――こんな時でもつい癖で丁寧にとってしまう――、その中身を確認するや否や、はまた目を点にしてしまった。
「……お、オルゴールっ!?」
先まで自分が見ていたあのオルゴールだ。
かわいい、きれい、これ好み、と眺めていたオルゴールだ。
真田を見て。
オルゴールを見て。
もう一度、真田を見て。
――なんだ。先輩のあのツッコミ入れようにも入れられない、格好良いドヤ顔は。
は呆然としていた。
「二度見してしまった」
「されたな」
「先輩、これ。良いの? 俺、貰って良いの?」
「いらないのか?」
笑って訊ねる真田に、素早く深々と頭を下げた。
「うぇ、あ、ありがとうございます! 今月キツくて悩んで諦めてたとこだったんでマジ嬉しいですっ! 俺、大事にするっ!」
「そんなに喜んで貰えるとは思わなかったな。……買って良かったよ」
は顔を赤くして喜んでいた。大事そうにオルゴールを包みに戻し、感情を抑えきれずにずっと笑っている。クリスマスプレゼントにはしゃぐ子供が、こんな顔をしている気がする。
それまで黙っていた順平が、そそくさと真田に寄り、耳打ちをした。
「、すごい喜びようっすね。フッツーに超可愛い女の子ですな」
買ってあげた先輩も先輩っスけど……。胸中で順平はそう続けた。
真田は舞い上がっているの様子を見て、満足そうに口を開く。
「あんなに欲しそうな顔をされたらな……。買った甲斐があるよ」
穏やかな笑顔で呟く真田に、順平はしみじみと呟いた。
「……真田サンも、やりますよねー。素でやってんすか?」
「何をだ?」
「素なのね……」
傍目からしたら、オレ、カップルに茶々入れてる残念男子だよねコレ。
順平は何処となく居心地の悪さを感じていたのだった。
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