細工屋を楽しみ、観覧車に着いた頃には、日も暮れ始めていた。
薄オレンジが遊園地じゅうを照らして、何処となくノスタルジックな光景に映る。
「やっぱ観覧車って言えば男女ペアですよなー」
意気揚々と話す順平の横で、奏夜が指を折って人数の確認を始めた。
「俺、順平、ゆかりッチ、風花、、桐条先輩、真田先輩……。一人あぶれるよな?」
「早い者勝ちってことで!」
「ナニそれ……」
「じゃあさん一人で乗るー。一人で男女兼用してっから!」
はいはーいと高らかに手を上げながら名乗り出たに、奏夜が鋭い目でぴしゃりと言い放つ。
「それは許さん」
「な、何故……」
がっくり肩を落としてしょぼくれるを尻目に、奏夜はくるりと向きを変える。
「てな訳で俺は桐条先輩と乗りたいです」
「え? 私は構わないが」
「じゃあ行きましょーか」
奏夜は颯爽と相手を指名し、美鶴の手を引いて観覧車に乗り込んだ。
どうやらそういう流れらしい。「女子に選択権はなしか」と小さくゆかりが呟くのが聞こえたが、言葉の割に楽しそうな顔だった。
奏夜たちが行くと、「じゃあ次はオレ」と順平が女性陣を振り返る。
「たまには……よし、風花ー。一緒に乗ろうぜ」
「うん、良いよ」
「んじゃお先ー!」
順平と風花が観覧車へ乗り込んで行き、その場には残ったのは、、ゆかり、真田の三人。
じっと観覧車を見上げるだけで無言と化したに、ゆかりが声を掛ける。
「、乗りたくないの?」
「いざ目の前にすると、思ったより高くて抵抗が……」
「俺もだ」
「奇遇ですね先輩」
「だな」
「……うーんと……」
流れに乗って二人組でいってしまうと独りぼっちが出来てしまう。自分も独りで観覧車は嫌だし、この男たちも独りだと可哀相な気がする。
ゆかりは、と真田を交互に見やって提案した。
「三人で乗る、っていうのは?」
あからさまに二人の男の目は輝いた。
◆◆◆
「おはー。たっかいねー!」
「、怖がってた割に楽しんでるじゃないか」
「怖がってた訳じゃないっすよ先輩! あ、ほら、ゆかりちゃん! すげーよ海キレー」
「ほんとだ」
目を輝かせて窓に張り付くに、ゆかりと真田は笑った。
「って弟気質じゃないですか?」
「俺もそう感じてたとこだ」
しみじみとした親のような呟きである。
二人から暖かな眼差しを向けられ、は恥ずかしそうにはにかむ。
「う、うん。俺マジに弟だから……って、何それじゃあ二人はお兄さんお姉さんなの?」
素早い切り返しだった。
の上兄弟が少し気になるものの、何となく訊ねづらくなったので、ゆかりは自分のことを素直に答えることにした。
「私は一人っ子だけど……先輩は?」
ゆかりに当然のように促され、真田が瞬きした。予期せぬ衝撃を受けたような顔だった。
少し間を置いて、真田がぎこちない笑みを浮かべる。
「妹が、いた」
意味ありげな間と、静かな真田の声に、観覧車内の空気はしんとする。
こっちもこっちで聞かない方がよかった系ですか! ゆかりは胸中で叫んだ。
それ以上言及してはいけない何かを感じたゆかりは、「あ、そうなんですか!」とだけ返し、改めてに向き直った。とにかく話題を変えたいのである。
「兄気質と弟気質ね。じゃあさっきの土産屋も納得だわ」
「え?」
「順平から聞いたわよ。オルゴール買って貰ったんですって?」
やるじゃん、このー。
つんつんと肘でをつつきながら、ゆかりは少し意地悪そうに笑った。
もで、その話題に便乗するように答える。
「そっすなあ、多分あん時の俺は自然と『お兄ちゃん、これ買って』的なオーラを放ってたんでしょうな」
「何よソレ!」
ゆかりの鋭い突っ込みにが嬉しそうに笑う。
二人の会話に、真田も笑っていた。
「オーラかどうかは判らないが、無言でオルゴールに集中してたからな。あと気紛れだ」
真田の返答に、が大袈裟に肩を跳ねさせる。
「気紛れであんな素敵なもの頂いた俺スゲエ!」
「学校でバレたら真田先輩のファンにど突かれるわね……。ご愁傷様」
「いやそこは助けて? ばらしちゃやーよ?」
手を合わせるに「どーしよっかなー」とゆかりが返し、「そんなご無体な!」とが空を仰ぐ。
ゆかりとのやり取りは必要以上に明るかった。
普段“鈍感”だと言われる真田も、珍しくその理由を悟り、申し訳なさを感じていた。
(俺に気を遣ってるよな、間違いなく)
真田には、確かに妹がいた。
孤児である自分たちにとって、互いに唯一無二の血縁だった。
(美紀……)
養父母に引き取られる直前に孤児院で起きた火事。
幼い妹は火の中に取り残され、同じく幼かった自分は生き残ってしまった。
何度も妹を助けようともがいた。
しかし、制止する大人を振り切る力さえ無かった、あの時の自分は――。
「真田先輩?」
真田はハッと顔を上げた。
ゆかりとが、心配そうに真田の顔を覗き込んでいる。
外を見ると、景色はだいぶ低くなっていた。もう間も無く観覧車は一周するところらしい。
「先輩大丈夫ですか? まさか本当に高い所駄目でした?」
「気分悪い? 肩貸そうか?」
相当酷い顔をしているのだろう。やけに気を遣ってくる後輩たちに、真田は苦笑した。
「ああ、大丈夫だ。すまないな」
がこんと揺れながら、観覧車が止まる。
三人が車内から出て来ると、先に乗っていた四人が、出迎えのようにすぐそばで待っていた。
奏夜が笑いながら口を開く。
「待ったよ」
「一番最初はそりゃ待つよね」
「そうだよ」
の答えに、やはり奏夜は笑った。
空は完全な夕焼け色に染まっていた。
誰からともなく歩きだし、帰路へとつく。
タルタロスも何も無しに皆で共にした時間というのは、今までに無かった。その分、今日という日は、確かな輝きを持って思い出として残る。
は寮の自室に戻って尚、遊園地で過ごした時間に思いを馳せた。
「このあたりで、いっかなぁ」
ベッドから手を伸ばして届く距離に、真田がくれたオルゴールを置く。
オルゴールは小さな箱のようになっていて、アクセサリーや小物なんかをしまえるようになっていた。明らかに女物の品である。
だがそれ以上に、懐かしさを感じさせる音色には惹かれた。
「真田先輩に今度お礼しないとなぁ。牛丼でも作ったら良いか……?」
オルゴールの可憐な音色に癒されつつ、はベッドに潜り込んだ。
(また皆で、いつか。こんな風に遊びに行きたいな)
その夜は、心なしか何時もより緩やかに眠りへ誘われたような気がした。
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