何時ものように名前も知らない女子の群れに囲まれていた。
うんざりして視線を上げた時、ふと視界に気になる姿が映った。
(……誰だ、あれは)
長い黒髪の少女だった。遠巻きに、こちらを眺めている。俺を取り囲む輪に入る様子も無い。ぼんやりとしたまなざしは、何かを愁いているようにも思えた。
腰より長く伸びた髪は、風が吹くたびにさらさらと流れては揺れ、差し込む日を受けて艶めいている。
少女が視線を動かした。俺とがっちり目が合う。少女は驚いたように口を開いて、しかし――笑った。
「な……」
俺が目を丸めているうちに、少女は軽く会釈して踵を返す。
思わず俺は駆け出していた。慌てて少女の後を追う。
――見失い掛けながらも、2年の教室に入っていくのが見えた。
「……2年、か」
確認したのとほぼ同時に予鈴が響いた。
◆◆◆
「なあ、美鶴」
「どうした、明彦?」
俺は、少し言いにくく感じながら――その理由は自分でもよく判らない――口を開いた。
「……2年に、黒いロングヘアーで背の高い女子って、いるか?」
「岩崎……? いや、背が高いなら……のことか?」
「知ってるのか!」
美鶴は、俺の勢いに少し驚きながらも話し始めた。
「2‐E、 。体が弱いのか、早退や欠席が多いらしい。詳しいことは……伊織の方が判るんじゃないか?」
何故、順平に聞いた方が判るのだろうか。
疑問に思いながらも、夜、学生寮で順平に尋ねた時、理由が判った。
「真田サン、知らないんですか!? 大和撫子、 ! 病気がちで、あまり学校に来れないみたいなんすけど、それが尚更燃えるっていうか? んでー……」
それからしばらく、順平から、 についての話を聞かされた。
誰が告白しようとも「ごめんなさい」で一蹴し、登校しても、窓から空を眺めていることが多いらしい。誰かと一緒にいることもないそうだ。
他にも、色々と。
「――いやー、しかしセンパイも男だったんすねー」
「は?」
一通り話し終えた順平は、にやにやしながら俺を見た。
「だって真田サンが女の子のことを聞いて来るなんて。まさか、さんに惚れちゃったとか?」
「……ほ、惚れた?」
「いやー、良いですよねー。清純そうな顔してるのに、結構スカート短くって。ああいうのも良いっすよね!」
一人盛り上がる順平を余所に、俺は悩んだ。
(――いや、これはそういうのじゃない。ただ何となく気になっただけで……)
誰彼に混じることなく、ひとりで立っていた。纏う雰囲気も、普通の女子とは違う。
今までに見たことのないタイプの人間だと思った。
だから、気になって。
それだけで。
「真田サン、ぼーっとしてますよ? え、もしかしてマジで?」
「馬鹿言え」
「うわ酷っ!」
本当に、それだけだ。
◆◆◆
(いやあ、真田先輩って本当にモテモテなんだなぁ)
何時ものように教室で空を眺めながら、は考えていた。
(住む世界違うってああいうのかぁ。男としては一度経験してみたいよね……ってこの格好じゃ無理か)
それに、あんな怖い目の女子の輪は勘弁だな!
はひとり、物思いに耽りながら笑っていた。
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