※もし長編より前に夢主と真田が接触していたらというお話
今日から月光館学園の生徒となる、始業の日。
満員のモノレールの中で、は早速気持ち悪そうに青褪めていた。
「都会は人多いなぁ……」
扉に押しつけられるような状態が続いていて辛い。少し体勢を変えたいのだが……。
「……ん?」
は違和感を覚えた。
何故か、自分の尻に。
まさぐられているような、全体的に撫で回されているような。この気持ち悪さは何だろう。
(考えるまでも無く痴漢じゃねーか!)
ドアのガラスで確認してみると、真後ろにやや息の荒い男がいる。
コイツだ。明らかにコイツだ!
思わず怒りに体が震え、は必死に堪えた。
(髪が汚れるだろ、息を止めれー!)
生憎見た目が幾ら大人しそうな女子とは言え、中身は男。
そしては、この程度で怯えて硬直するような人間では無かった。
もうすぐ駅に着く。
学校には遅れるかもしれないが、手首捻りあげてホームに叩きつけてやる。
決意したは男の手を取ろうと、静かに動いた。
――瞬間。
「いでっ!」
後ろの男が悲鳴を上げた。
振り向くと、男の腕はグイッと捻り上げられており、小さくもがいている。
そして、男の腕を捻っているのは……銀髪の少年。
少年は呆然とするを見て、声を掛けてくれた。
「大丈夫か?」
低くて耳に心地良い声だ。
少年の言葉に、こくこくと頷いて返す。
ぼうっとしていると、モノレールが停車した。後ろのドアが開く。軽くよろけたを、少年は空いている片手で支え、一緒に駅へ降りた。
「すみません、駅員さん。コイツ痴漢です」
近くに立っていた駅員に淡々と男を引き渡し、少年はを振り返った。
「ったく、馬鹿な事をする奴がいるもんだ……。本当に平気か? 怖かったろ?」
「あー、えっと……」
「震えてるのが見えてな。どうかしたのかと思って寄ったらアレだ」
「……ああ」
苛々して震えてたんです、と言い直す必要性も感じないので、は黙っていた。
すると少年は「普通、怖いよな」と気遣うように笑ってみせた。
運良く空いていたホームの椅子に、促されるままには腰掛ける。隣に座った少年を横目に、は沈黙していた。
(何だ、このイケメンは……)
腕っ節も良くて喋ってもただ立っててもカッコいいなんて、欲張りだろ……。
思わずは遠い目になった。しかしハッと我に返ると、少年に向き直った。
彼に礼を言わなくてはならない。
「えっと、助けて頂いて、ありがとうございました」
「気にしなくて良い。後輩を助けるのも先輩の務めだからな」
「せんぱい?」
が首を傾げると、少年は笑った。
「俺は真田明彦。月高の二年だ」
「ああ、確かに先輩ですね。自分、今日から月高一年生なんです」
はなるべく名乗らない方向で進みたかった。
この人、見た感じからして人気者オーラが凄まじい。下手に関わったらファンか何かに血祭りされ兼ねない。
保身の為に、の脳内は冷静に活動していた。
「やっぱりな。それで、お前の名前は――」
「すみませーん」
真田の声に丁度被った女性の声。ふたりの元に、女性の駅員がぱたぱた駆け寄って来る。
「あの、お話とか伺いたいので、彼女さんに来て頂きたいんですけれど……」
「え? ああ、そういうのあるんですか」
「心細いようでしたら、彼氏さんもご一緒で構いませんよ」
は噴き出しそうになって、慌てて口許を押さえた。
駅員さん、俺も男です! まあ俺女装してますからね、にしても飛躍した勘違いだ……! いや、こんな美形とカップルに見られるなんて、逆に光栄かもしれない。
笑いを堪えていたら顔が赤くなって来た。
く、苦しい。
おまけに真田は、生真面目に頷いてを見る。
「まだ整理がつかないところもあるだろうし……。付き添ってやるぞ?」
「い、いや、大丈夫です。先輩は早く学校に向かわれた方が。きょ、今日は本当にありがとうございました」
理解していない真田のリアクションに腹筋をフル活動させながら耐え、は駅員へついて行った。
「――うん、遅刻だなぁ」
手早く話を済ませ、は改めて学校へと向かったのだった。
◆◆◆
「大丈夫か? あの子……」
必死に赤い顔で「引率結構です! 先輩はどうぞお先に!」と言われて、先に来たものの、またトラブルにでも遭っていたら……。
何となく幸薄そうな顔だったしな。
「やっぱり一緒に来るべきだったか」
真田は小さく息を吐いた。
(彼女に彼氏、って……あの駅員は何を言ってたんだ?)
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