※もし7月7日の大型シャドウの術中から復活するのが遅れていたら、というお話
※真田先輩が可哀想です
『享楽せよ…』
視界がぼやけ、まるで海を揺蕩うかのような心地のなか。
何かが、聞こえる。
『我、汝が心の声なり… 今を享楽せよ… 見えざるものは幻… 形ある“今”だけが真実…』
何者ともしれない澱んだ声が囁く。
しかし何だろう、酷く心地良い声だ。
『未来など幻想、記憶など虚構… 欲するまま、束縛から解き放たれよ… 汝、それ望む者なり…』
欲するまま……?
何を、欲するというの?
『汝、真に求むるは快楽なり 汝、今まさに快楽の扉の前にあり』
――快楽?
『本心に耳を傾けよ… 汝、享楽せよ…』
ゆっくりと視界が輪郭を取り戻し、同時に感覚も戻ってきた。
柔らかいものに体が包まれている。どうやら自分はベッドに寝転がっていたらしい。
(……ベッド?)
そういえば、ホテルの……?
の意識は、少しずつハッキリとしてきた。
誰かに体を撫でられているような気がする。見覚えある影が、覆い被さって来る……。
(え、先輩……?)
真田がを見下ろしていた。
そして、おもむろにの首もとへ手を伸ばし、リボンを解き始める。
(ま、待て待て! 何してんの先輩……!?)
叫び、抵抗しようとしたものの、体はぴくりとも動かない。自由になったのは意識だけのようだ。
その間も真田は、の制服に手を掛ける。ブラウスのボタンが外され、スカートまでも……。
を脱がしながらも、自分のリボンタイを緩め、手袋を外す様は、かなり“やる気”のようで……は焦った。
真田にあちらこちらを撫で回される度に、変に体が震えて仕方ない。
(やばい、やばい! こんな趣味ねっつーの!)
真田はに跨がり、顔を寄せて来る。少し笑っているような気がした。熱っぽい瞳がを見つめている。
(駄目だろ、こんなことしてる場合じゃ……ッ!)
何より、そんな趣味は無い!
――唇が重なりかけた時、の身体が感覚を取り戻した。
「っ、目ェ覚ませー!」
怒号と共には右足を曲げ、真田の股間を蹴り上げた。
「ぐおっ!?」
かなり痛そうな声だった。焦るあまりに思い切り蹴ってしまったので、今のが先輩の断末魔にならないことを祈る。
あまりの痛みに真田は背中を丸め、股間を押さえ、ぷるぷると震えていた。
わたわたと真田の拘束から逃れたは、肩で息をしながら彼を振り返る。
「起きた? 起きました!?」
「っ、……っ! っの、お前っ……!」
「あんたがいけないんだろーが!」
乱された衣服を直しながら、は憤慨した。
「ったく! ……そうだ、シャドウだよシャドウ! 俺ら作戦中じゃないですか!」
「うぅっ……」
「同じ男として、悪いことしたとは思いますけど。正気なくしてた先輩が悪いんですからね! 本当に申し訳ないですけど非常事態でしたから!」
は喋りながら、呻く真田を支え起こしてやった。せめてものお詫びにと、彼のリボンタイも直しておく。
真田は涙目である。はそっと、彼が股間を覆い続けている手を引っ張って退けた。……一応の確認のために。
「……ついてんじゃん?」
「とれてたまるか! っ、触るな……!」
「うわっ、や、何反応してんですか!?」
「誤解を招く言い方をするな!」
「すいませんってば! お、俺もいっぱいいっぱいなんですよ!! 勘弁してください!!」
シャドウに躍らされた真田は、怒りや恥ずかしさの限界をとうに越した様子である。普段のクールでニヒルな姿は見る影もなく、顔を真っ赤にして、涙を堪えていた。
「……、覚えてろよ」
「襲われ掛けたなんて現実、早く忘れたいです……」
「そ、そういう意味じゃない! 襲ってない! あれは事故だ!」
「すいません、すいません!! 下手したら俺が先輩の立場になってたかもですしね本当にごめんなさいー!!」
真っ赤になって怒る真田に対して、真っ青になって震える。
そんなふたりに、風花からの通信が入った――。
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