※バカップルなお話です
真田は不思議だった。
以前は朝となれば、荒垣の部屋からけたたましい目覚し時計のベルが響いたのに、最近はちっとも無い。
それどころか、朝が苦手な荒垣が、ばりに早起きをするようになった。
「シンジ、随分と朝に強くなったもんだな」
荒垣は、ああ、と頷いた。
「が起こしてくれんだよ」
「――へ?」
「最初はお節介だと思ったが……これが不思議と気持ち良く起きれる。んで一緒にテメェらの朝飯を支度してる訳だ。なぁ?」
荒垣に話を振られ、は「そう!」と元気よく頷いた。
ちなみに今日は日曜日。学校は休みである。
ふたりは仲良く並んでソファーに腰掛けていた。寄り添い合うかのようにその距離は近い。
真田が沈黙する中、荒垣はを見た。
「何食ってんだ」
「チョコです。すごい苦い奴」
「俺にもくれ」
返事代わりにが差し出した一口サイズのチョコレートを、荒垣が口で受け取る。
真田は噴き出しかけた。
「苦ェ……」
「苦いって言ったでしょー?」
「こんなんチョコじゃねぇだろ……」
文句を言い、顔をしかめつつ、荒垣はチョコレートを飲み下した。が飲んでいた純粋ハチミツを勝手に貰い、口直しを済ませる。
が「あー!」と声を上げた。ばしばしと荒垣をはたいて抗議する。
真田は呆然としていた。
「俺のハチミツー! もう殆ど空じゃないですかぁ!」
「あー苦かった……」
「うぐぁあ、荒垣さんの馬鹿ぁ!」
ぐあああ、と渋い叫びを上げ始める。荒垣は溜息を吐きながらも、そんなの頭を撫でた。
「悪かったよ。何か買ってくっから」
「ハチミツぅぅ……」
「あー、悪かったって……」
荒垣は額同士がくっつきそうなほどにへ近寄る。そしてすっかり意気消沈したその顔を覗き込み、しょぼくれた声で謝る。
真田も別の意味で意気消沈し始めていた。
(こ、こいつら何かオカシイ……)
しかし、このくらいは、まだまだ序の口だったのである。
◆◆◆
まったりした休日も夕方を迎え、が皆の食事を用意してくれた。
「今日の夕飯は桐条先輩リクエストのビーフシチューですよー」
の台詞に、ほんのり頬を染めた美鶴が嬉しそうに頷いている。
料理が運ばれるや否や、誰からともなく「頂きます」と料理を口に運ぶ。はニコニコしながら台所へと向かっていった。
それを、荒垣が当然のように追いかけ、の腰に片手を回して引き止めた。
は目を丸めた。
問い掛ける代わりに、荒垣を見つめる。
ちなみに食事中の他のメンバーも、その光景に硬直していた。
視線や空気を気にすることなく、荒垣は淡々とに告げた。
「お前も先に飯食え。片付けは後で構わねえよ」
「でも……」
「俺も手伝う。だから大丈夫だ。な?」
わしっと一回、荒垣がの頭を撫でる。ほんのり頬を染めては頷いた。
荒垣はそれを確認するとを解放した。……しかし。
「! ……待て」
「はい?」
の手を荒垣が掴んだ。
「やっぱり良い」
「えっ?」
「お前は飯食ったら、片付けなんかしねーで休んでろ」
「なんで?」
が首をかしげる。
荒垣は溜息を吐いて、掴んだの手を見つめた。
「手荒れ、ひでぇぞ」
荒垣の指摘を受け、は恥ずかしそうに視線を逸らす。
「あー、でも料理するとこんなもんじゃ……」
「にしてもひでぇ。……ったく、無理すんなって言ってんだろが」
辛そうに目を細める荒垣を見て、は申し訳なさそうに俯いた。
の手を引き、踵を返す荒垣。ふたりは隣同士で食卓へとついた。
アイギス、コロマル、奏夜以外の一同は、まだ呆然としている。
「あ、荒垣サン、キャラ変わってね……?」
「何て言うか……溺愛?」
順平とゆかりがひそひそと話す。その横で風花は合点が言ったように頷いた。
「荒垣先輩とくんって、恋人同士だったんだね」
「えっ!?」
が大袈裟なくらいに声を上げた。荒垣もシチューを噴き出しかける。
「っ、放っておけねーだけだよ……」
「ワンッ、ワン!」
呟く荒垣に、何か言いたげにコロマルが吠える。コロマルの意思をくみ取り、アイギスは律儀に素早く代弁し始めた。
「荒垣さんとさんは時間さえあれば寄り添っている。例えば自分を散歩に連れていってくれた時に、神社のベンチでふたりは――」
「アイギス待った待ったー!」
真っ赤になったが、慌ててアイギスの言葉を遮った。荒垣に至ってはテーブルに崩れるように突っ伏している。
美鶴は、その様子に苦笑していた。
「恋は人を変えるものなんだな」
「そうなのか、恋か……。シンジと……が……」
「真田さん、大丈夫ですか?」
しょげた真田に、天田が哀れむような声を掛けた。
それまで黙々と食事を続けていた奏夜が、不意に口を開く。
「――で、神社で何してたのあんた方は」
が顔を両手で覆った。復活したばかりの荒垣が、赤い顔でバツが悪そうに視線を逸らす。
奏夜が、フッと悟ったような笑みを浮かべる。
「……何となく予想つくけれど。アツアツ通り越してバカップルだよお二人さん」
と荒垣は目を丸めた。どちらからともなく顔を見合わせる。
バカップルなのか、俺達。
視線で語り合う様も、散々見せつけられた周りからしてみれば、バカップルの行動に見えてしまう。
「お、俺……ただ、荒垣さんが……好きで……それで」
言葉に詰まるの頭を、荒垣がそっと撫でる。
「わあってるよ。……俺も同じだ」
「荒垣、さん」
「ただそのせいでお前に迷惑掛けちまったな。今度から、もうちょい気を付ける」
は瞳を潤ませながら、こくんと頷いた。荒垣も笑って返す。
……そこには、二人だけで通じ合う何かが存在していた……。
皆が呆然とするなか、奏夜はひっそり呟いた。
「――やっぱりバカップルだ」
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