自分の名前は虎狼丸。今日も今日とて、散歩を終え、我が家へと戻る途中だ。

「おお、コロちゃんじゃねえか。丁度良いところで会ったな」

 が、思わぬ人物と出くわした。この人は良い人だ。自分のことを可愛がってくれているのがよく伝わってくる。
 愛想は良くないがどっしり構えていて、頼りになる男性――あくまで自分の推測・イメージだか――だと思う。

「お前に食わしてやろうと思ってな……。ほら」

 何よりこの人がくれるご飯が美味しいのだ。わざわざ作ってきてくれる。申し訳ないと同時にありがたい。嬉しい。
 目の前に置かれた容器。漂うかぐわしい肉の香り……。千切れんばかりに尻尾を振る自分である。

「よしよし、たんと食え」

 頂きます、と一声吠え、ありがたくかぶりつく。
 止まらない…! あっという間に平らげてしまった。ご馳走さまでした、の一声も忘れない。

「ワン!」
「ははっ、旨かったか?」
「ワンッ!」

 大きな手が自分の頭をわしわしと撫でる。色んな暖かさを感じた。
 ……そこに、ぱたぱたと軽やかな足音が近付いて来た。
 男性が立ち去ろうとするよりはやく、足音は合流した。

「あ。荒垣さん?」
「テメェか……」

 男性は荒垣と言うのか。そして駆け寄ってきたこの人は……ああ、よく神社のゴミ拾いをしてくれている人だ!
 荒垣さんと同じく自分によくしてくれて、かつ、食事を恵んでくれる御仁である。

「あっ、そうだコロちゃん! 良かったらコレ食べない?」
「ワンッ!」

 今日も今日とて食事を持って来てくれたようだ。勿論、頂きます。
 自分は先程のように目の前に出された容器と対面し、中身にかぶりついた。荒垣さんがくれたものより、野菜が多めである。

「荒垣さんやっぱ動物好きだったかぁ。寡黙で不器用な男は、動物に弱いと相場が決まっている!」
「何だそりゃ」

 心なしか荒垣さんの顔が赤い。この美人さん、なかなかのツワモノである。
 ワンとご馳走さまの一吠えを上げる。美人さんは自分の頭や顎やらを撫でてきた。気持ち良い。

「ふふっ、満足満足。ありがとコロちゃん」
「ワン!」

 荒垣さんは感心したように美人さんを見ている。

「わざわざ作って来てんのか」
「荒垣さんもでしょ」
「なっ……」
「何となく判るんだぜー」

 自分も驚いた。美人さんはエスパーではないだろうか。

「何となくにおい残ってたし、ちょっと零れてるし。……そっかぁ荒垣さん料理も得意なんだ!」
「得意ってか、ちょっと好きなだけだ」
「十分でしょ。コロマル、荒垣さんの料理美味しかった?」
「ワン!」
「……お前」

 目一杯の同意をしてみせると、荒垣さんの顔が緩んだ。美人さんの顔も緩む。
 なんだか和やかな空間である。
 しかし時とは残酷で、自分はいい加減帰らなければならない。お二人も悟ったようだ。

「じゃね、コロマル」
「またな」

 自分は二人に返事代わりに一吠えすると、帰路についた。
 背中越しに、荒垣さんたちが仲良さそうに言い合っているのが聞こえてくる。
 会話の節々に自分の名前が出て来ていたのが、ちょっぴり嬉しかった――。

「ワン!」

 今日は、良い夢が見れそうである。

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