目を丸めて俺を見つめる恋人。何が起きたのか判らないらしく、床に座り込んだまま動かない。右頬に差した赤みは、間違いなく俺がつけたもの。
「せん、ぱい?」
うっすら涙を滲ませたの瞳は、信じられないものを見るように揺れていた。
背筋や肩に、ゾクゾクしたものが走る。思わず笑みが零れた。
「」
「は、い」
「何で叩かれたか、判らないのか?」
優しく話し掛けたはずなのに、はどんどん顔を歪めていく。呼吸さえ引きつり、小さく頷く様は子供のようだ。
そう。は子供なんだ。
純粋で無邪気で、善悪も構わず愛想を振り撒いて。“皆が好き”だなんて馬鹿みたいなこと、本気で体現しようとしてるんだ。
要らないだろ?
“皆”なんて。
お前が“好き”になるのは、目の前にいる“俺”だけで良いだろう?
が何度言っても判ってくれない時は、ちょっとお灸を据えてやる。その頬の痛みなんて、八方美人なお前に振り回された俺の苦しみに比べたら、どうってことないさ。
手間の掛かる、可愛い可愛いこいびと。俺がしっかり教えてやらなきゃ。そんな無知なお前も大好きなんだ。
の前に屈んで、顔を寄せる。腫れた頬を優しく撫でてやった。
「。お前は、俺のものなんだ」
「せん、ぱい、の……?」
「ああ、俺のだ」
を抱き締めた。微かに震えているのが伝わってくる。驚かせてしまったんだな。安心させるようにきつくきつく抱き締める。
細くて、容易く折れてしまいそうな体。愛しくて、いとおしくて、胸が切なく痛み出す。
ちゃんと俺が、守ってやらなきゃいけない……。
「。お前は、俺以外の奴と関わったら駄目なんだ。俺以外の奴に笑顔を見せたり、触れたり、話したりすることも、全部許さない」
が、息を呑んだ。
「お前には、俺だけで良い。俺も、お前だけで良いんだ。お前だけじゃなきゃ、嫌なんだ」
大丈夫、寂しいことも苦しいことも何も無いから。
お前を幸せに出来るのは俺だけなんだから。誰よりお前を想っている俺だけなんだから。他の奴には出来っこないんだから。
ずっとお前は俺と一緒にいるだけで良いんだよ。俺がずっと守ってやるから。
離さないから。
ずっと。
死んでも一緒だ。
何処までも連れて行く。
どこまでも。
「だから、そんなに泣かなくたって大丈夫だ」
お前が泣きやんでくれるまで、安心してくれるまで、抱き締めてあげよう。
は泣きながら身をよじった。
俺は、腕に込める力を強くする。そうすると、はすぐにもがくのを止めた。
「ぅ、あ」
息苦しそうにが喘いだ。
投げ出された手の先が、震えている。
「っ、せん、ぱ、」
「……逃げるなよ」
離れることなんて、許さない。
全部、お前は俺のものだ。
「俺に、縋れ」
お前の全てを、俺で満たす。俺にはお前が全てなのと同じように。
指はおろか髪の先まで、全部、俺で埋め尽くそう。
が半開いた口を、自分の口で塞いだ。苦しそうに眉をひそめるの表情に、ついつい俺は興奮してしまった。
(いつでも熱いな、の舌は――)
――このまま、俺をいっぱいに感じてくれたままのを締め殺したら、ずっと一緒にいられるだろうか。
(それも良いかもしれない)
胸中で笑みを零し、俺は、離れかけたの頭を掴み、また深く口付けた――。
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