※荒垣と共に年末を迎えるお話です




 俺と荒垣さんの年末は、おせち料理へとあてられた。
 巖戸台分寮のメンツぶん作るとなるとなかなかの量である。かつコロちゃんを愛する俺たちに死角はなかった。犬用おせちも準備済みなのだ。
 つまみ食いを図る順平くんや真田先輩には容赦ない荒垣さんの制止がはいり、愉快だった。


 俺と荒垣さんは、コロマルと共に新年を迎えた。
 夜中だというのに二人して長鳴神社に繰り出したのだ。それにコロマルもついてきたのである。
 初詣をしたいと言ったのは俺なんだけど、まさか夜中に行くなんて。荒垣さんは「人ごみは好きじゃねえ」と話したけれど、だからって夜中はどうなんだろうか。影時間中に出たらちょっと危ない気がします。

「二人の方がのんびり出来んだろ」
「ワンッ」
「でも寒いですー!」

 出て来る直前までバラエティー番組を見ていて笑いまくっていたので、体は温まっていた。そのぶん冷えたら辛い。とりあえず両手をこする。
 見かねた荒垣さんが、俺の手をひいてベンチに誘導した。座った俺の膝にはコロマルが飛び乗り、すっかり冷えた体に優しい温もりが戻ってくる。

「あー、俺もコロちゃんみたいにあったかい毛皮のわんちゃんになりたい……」
「すでにお前、犬みてーなもんだろ」
「ワン!」
「ちょ、どういう意味ですか!?」
「そのまんまの意味だよ」

 笑いながら荒垣さんは俺の額を小突く。コロマルまで荒垣さんに同意するみたいに吠えたものだから、上手い反論の方法も見つからない。
 影時間の明けた夜空には、散り散りに星が瞬いている。吐く息はふんわり白く染まり、すうっと消えていった。
 年が明けたのに、なんの変哲もない冬の光景だ。

「あけましておめでとう荒垣さん」
「おう、今年もよろしくな」
「はい! コロマルもね」
「ワンワンッ!」

 俺たちにとってこの1月は、途方もなく重い時間になる。こんなにのんびりと新年の挨拶を交わしている時点でおかしいくらいだ。
 それでも、いや……だからこそ、普通に過ごす瞬間が欲しかった。

「荒垣さん、いつか新潟の俺のじいちゃんばあちゃんの家に来てくださいよ。ばあちゃんの料理は天下一品なんです!」
「お前の料理の腕も、そのばあさん仕込みってわけか。そりゃ気になるな」
「あとじいちゃんはムチャクチャ面白いんで腹筋を鍛えられます」
「おいおい、どんだけだよ」

 たくさん、未来の約束を重ねる。これから待ち受けている途方もないもののために。
 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、荒垣さんは笑いながら俺に優しく返してくれていた。
 コロマルの毛並みを何度も撫でながら、真夜中だというのに俺はしゃべり続けた。

「あー、荒垣さんって卒業するの? やっぱり留年なの?」
、テメェは聞いちゃならねぇことを聞いた……」
「ひぃい! ごめんなさーい!」
「冗談だよ、判ってんだろ?」
「はい!」
「無駄に良い返事だ」

 繋がれた手の平から伝う温度が、心を押しつぶすような不安をじんわりと和らげていく。

「そろそろ帰るか」

 促すように引かれた手に、つい頬を緩ませながら俺は頷いた。
 コロマルが俺の膝から下り、早速駆け出して行く。俺と荒垣さんは、繋いだ手をそのままに、コロマルを追い掛けた。
 荒垣さんの手も、俺と同じぐらい冷たい。

「帰ったらあったかいもの飲みましょー」
「だな」

 ああ、来年もこんな風に、荒垣さんと過ごせますように。
 きゅっと手を握り直しながら、俺はひっそりとそう願った。


Top