俺にはクリスマスよりも正月が楽しみで仕方がなかった。
正月になれば、姉と一緒に祖父母の家に行けたからである。
両親のかわりに、姉と祖父母はたくさんの愛情を俺に注いでくれた。三人のお陰で俺は、色々ありながらもそれなりに真っ直ぐ育つことができたのだ。
今では長期休暇で帰るのも祖父母の家。……しかし今年は、里帰りする余裕も無さそうである。
アクセサリーショップである俺の職場は、今それなりに繁忙期なのだ。
働き始めて2年、店をほとんど任せてもらえるまでになった。
クリスマスプレゼントにとやってくるカップルのお客様たちも多い今、ますます気合いが入る。
今日も今日とてそのお客様たちの波を乗り越え、店を閉め、レジやら店内やら整えて。
帰る頃には夜の10時を回っていた。
外に出ると、足もとからすうっと冷えてきて、思わず身震いをした。マフラーに顔を埋めるようにしてのんびり歩く。
街灯があるとはいえ、暗いところもある。慎重に帰路についた。
里帰りできなくても、一応寂しい思いはしなくて済んでいる。
家に帰れば、待っているひとがいるのだ。
「ただいまー」
「おかえり」
学生時代と変わりない短い銀髪に、爽やかな笑顔。
真田先輩改め――明彦さんと暮らすようになった俺は、里帰りができなくても何とかなっていた。
「今日も遅かったな」
「精算してたらなかなか合わなくて。ようやく帰れました」
「お疲れ様」
明彦さんがいれてくれた温かいココアを啜りつつ椅子に腰掛ける。隣に座った明彦さんは、不意に俺の頬に手を当ててきた。
「冷たいな。飯より先に風呂にするか?」
「……んー、ご飯食べます」
そう返すと明彦さんは笑って頷いて、作っておいてくれていたらしいチャーハンを温めて、俺の前に差し出した。
牛丼ばかり貪っていたあの頃から、明彦さんはだいぶ成長している。ここ数年での俺の指導の成果だ。頑張ったなぁ自分。
「そうだ。お前宛に手紙が来てたぞ」
「え」
手紙は、新潟の祖父母からのものだった。慌てて封筒を開けて中身を確認する。
――新幹線の切符が二人分。あと手紙。“たまには帰ってきなさい”とだけ書かれていた。じいちゃんばあちゃんらしいシンプル加減である。
にしても……何故新幹線の切符は二人分なんだろうか。
考えながら明彦さんを見たとき、俺は気づいた。
「……明彦さん」
「なんだ」
「じいちゃんばあちゃんが、明彦さんと一緒に帰って来るようにって言ってます」
「えっ」
それしか考えられない。
先輩と同棲してることは伝えてたけど、会わせたことがなかったから。多分ふたりは俺の同棲相手が気になってるんだろう。
とりあえず俺たちは翌日、慌てて休みの都合を合わせて旅の準備を始めた。
俺たちが来るのを楽しげに待っているふたりのことを思うとなんだかわくわくする。
けど……。
「お、お前を嫁に欲しいと伝えるべきなのか」
「い、要らないですからそういうの!」
変な緊張に駆られているのもまた事実だった――。
(じいちゃんばあちゃんのしてやったり顔が、目に浮かぶよ)
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