たまたま買い物があって、既にクリスマスムードの漂い始めるポロニアンモールにやってきていた。
 無教徒か仏教徒か、とりあえずキリスト教徒とは思えない人々の山を抜け、噴水近くのベンチに腰を下ろす。
 ――疲れた。
 クリスマスを祝ったかと思えば、次は正月だお年玉だと騒ぐ。なんて都合の良さだろうか。
 そんな都合の良いもののひとりである自分。しかし行き交う彼らほど浮かれてはいないと信じたい。他愛ない思考を巡らせながら休息していた。
 何となしに向けた視線の先に、月光館の生徒がいた。
 見覚えのある黒髪の女子だった。彼女は会長たちと同じ寮に住み、仲も良いらしい。しかし名前を未だに聞いたことがないということに僕は気づいた。
 傍には白い柴犬が寄り添いながら歩いている。

(そういえば、寮で犬を飼っている……と彼が話していたな)

 近くの神社で飼われていた、コロマル、だったか。
 今年の夏から飼い始めたらしいが、まるで長年連れ添ってきたかのような睦まじい雰囲気だ。
 ぼんやり彼女を見ていた。
 ふと彼女が、柴犬に向けていた視線を上げる。その視線の先には、学校でも有名な真田先輩の姿があった。
 彼女は顔を輝かせ、真田先輩に手を振る。先輩もそれに気づき、苦笑しながら彼女に歩み寄った。
 先輩は何か言いながら彼女の額を小突き、彼女は笑いながら何かを言い返す。
 この人込みでは何を話しているかなんて聞こえるはずがなく、まず彼女は僕に気づいてさえいなかった。
 仕方ないことではあるが、何故か寂しい。
 彼女と真田先輩は、コロマルと共に歩き出し、いつしか姿が見えなくなっていた。

「小田桐」

 不意に名前を呼ばれ、我に返る。
 横を見れば、何時の間にか青髪の彼がいた。同じ生徒会のメンバーであり、数少ない僕の友人のひとりである。

「何かフられた順平みたいな顔してたよ」
「……そうかい?」
「うん。真田先輩たち見ながら、そんな顔してた」

 どうやら彼に見られていたようだ。彼らしくて、咎める気もしない。

「彼女は、先輩が好きなんだろうな」

 僕の呟きに、彼は何も言わなかった。無言で僕に缶コーヒーを差し出し、ただただぼんやりモールを眺める。
 冷えた手のひらに、まるで食い込むような缶コーヒーの熱を感じながら、僕は彼の厚意を受け取った。
 ――そんな僕が、“黒髪の彼女”は“黒髪の彼”であることを知るのは、もう少し先の話である。

(お付き合いしてるわけじゃなかったのか)
(うん、何か馬があうからつるんでるんだぜー)
(なるほど、な……)


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