ジャックちゃんの姿があまりにも際どいと思って、私は自分の服を一着、彼女用の私服へリメイクした。淡いピンクのふりふりのワンピース。出来上がったのがこんな感じなので、元の服については察してほしい。年齢的にももう厳しかった元私の服は、実に素敵な生まれ変わりを遂げたと自画自賛してみた。
――後日、おそるおそるジャックちゃんに声をかけ、ワンピースを見せると、大いに喜んでくれた。早速ワンピースを着た彼女は、「わあい! ありがとう!」とくるくる回ってフリルをなびかせながら、私の見たかった麗しい光景を見せつけてくれた。
カメラが欲しい、なんて思い始めたとき、ジャックちゃんはぴたりと舞うのをやめ、
「もしかして、おかあさんなの?」
……と、私に問うてきた。
もちろん私はおかあさんではないから、首を振る。
「ううん。ただのカルデアの職員だよ」
「どうして服をくれたの?」
「寒そうな格好をしていたからね。サーヴァントにはそういうの関係ないのかもしれないけれど、服があればあったほうが良いんじゃないかなって思ったの」
「おかあさんじゃないのに、やさしくしてくれたの?」
こんなにかわいい子のお母さんにならなってみたいけれど、相手は一応あのジャック・ザ・リッパーである。おかあさんは立夏くんがしっかり務めているし、でも……このぐらいのプレゼントはしても許されるよね。
おかあさんなの? という質問の時、ジャックちゃんというよりジャックという目つきになっていて正直ぶるっと来たけれど、彼女が私に与える印象はやはり「幼子」だ。幼い子ども。頭の回転が速く刃のキレが凄まじく、それでもやはり、子どもとして……慈しみをもって接したいなあ、と思う。つまりは子供って可愛い! なでなでしたくなる! えらいえらいしてあげたくなる! ……それだけだ。
「優しくしたつもりはないんだ。ジャックちゃんが喜んでくれるかもわからず用意したから。でも、ジャックちゃんが嬉しいなら良かった」
「よろこばなかったら、どうしたの?」
「うーん……。好きな色とか聞いて、ワンピースを作り直したかな」
「……そっかぁ」
ワンピースの裾をつまみながら、まじまじとフリルを見つめ、ジャックちゃんはうんうんと頷いている。次第にその顔には笑みが浮かんできたので、きっと気分を害したわけではないはずだ。
「わたしたちはこの服が好きだよ。だから作り直さなくていいね」
「うん、良かった。私もかわいい子にフリフリ着せたくてうずうずしてたから助かったよ」
「わたしたち、なにも助けてないよ」
「かわいい子はいるだけで周りを助けるときがあるんだよ」
「わたしたちがかわいいの?」
ジャックちゃんは無邪気な笑顔で駆け寄ってきた。白衣の裾をぎゅうっと掴まれて、私は動けなくなる。
私を見上げるジャックちゃんの笑顔はきらきらと輝き、
「じゃあおかあさんになってくれる?」
そう問いかける瞳はギラギラと光っていた。
……怯えない訳がない。けれど、この子をかわいいと思うのもまた、紛れもない真実だ。
私はジャックちゃんの頭を撫でながら、にっこり微笑み返した。
「立夏くんもいるし、おかあさんにはなれないけれど、お姉さんもちょっとは役に立つから頼ってね」
「そっかぁ。うん、わかった!」
あっけなく白衣から手を離したジャックちゃんは、何度も頷き、笑顔で私に言った。
「ありがとう、おねーさん! おかあさんたちにもこの服、見てもらうね!」
廊下を駆けていく彼女の姿はすぐに遠くなり、私も私で踵を返す。
立夏くんというマスターがいる限り、ジャックちゃんが切り裂きジャックになるのはレイシフト先の戦いでのみのこと。いたって平凡な青年にしか見えない立夏くんだけれど――いや、きっと、平凡な彼だからこそ、たくさんのサーヴァントとの絆を深めることができるのだろう。
英霊と共に戦い、悲しみ、喜び、乗り越えていく。その英霊のひとりに、あのあどけない少女も入っていて。まだ瞼の裏ではたなびくフリルの残像があったけれど、とっくに戸惑いや葛藤を割り切った身だ。あまりに子供扱いしすぎても失礼というもの。
でも、それでも。
彼女たちに与えられるべきだった愛情を、子供たちに与えられてしかるべき愛情を、少しでも与えられたならばと思う。
だって、頑張る子にはご褒美があって当然だもの。
「さん、この間はありがとうございます! ジャックがすごい喜んでました」
「どういたしまして、立夏くん。いや“おかあさん”かな?」
「そ、そう呼ぶのはジャックだけで十分足りてます!」
立夏くんやマシュちゃんにも何かあげられたら良いのだけれど、閉所の上に寂れた女の手では特に目ぼしいものは見当たらない。誠心誠意サポートを務めるくらいしかないのは、実に歯がゆかった。
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