「幸福の王子という童話について、調べてきた」
と、施しの英霊は私の前で微笑んでみせた。どことなく自信に満ちたその表情にいけない堪えなくてはと思いつつも胸を高鳴らせ、それで、と短く答える。無愛想な返答になってしまったのは私の余裕のなさの表れだ。泣きついて「あなたは幸福の王子みたいで心配!」と駄々をこねた当人なのだもの。出来ればあのまま忘れておいてほしいことを、とっても律義で真面目なカルナさんはいちいち掘り返してみせた。
「やはりどこがオレと似通っているのかは判らなかったが、あの王子の像の選択には概ね賛同できた」
「そこですよー……そういうとこですよー、もうー……」
ぐったりベッドに倒れこんで、私は盛大にため息をついた。寛大・平等・高潔。私はこれらの言葉が彼のために生まれたのではないかと最近思い始めている。ちょっとドクターの気まぐれでパンの買い出しに行ったり、その勢いで困っている農村を救ってみたり、カルナさんの器量と心の広さには果てがない。そんな英霊と出会えただけで私は一度終わりかけた人生も生きるに値するものだと考えを改めた。私もつまりは、彼の手に救われたもののひとりだった。独りよがりで収束させるはずの恋愛感情までもこの英霊が尊び、掬い上げてしまったのは全くの誤算だけれど。
私の駄々こねにもすっかり慣れた様子のカルナさんはベッドの隅に腰を下ろし、うーうー唸る私にお日様の如き暖かく慈しみ深い眼差しを向けていた。柔らかく細められた瞳をちらっと見ただけで私は耳まで燃え上がって、慌てて手で覆い隠した。
「あの王子の傍らには、王子の想いに応える燕が命尽きる時まで寄り添っていたな」
「あたたかな南の国へ渡ることをやめて、王子の願う通りに町中へ配達して回ったツバメですね。自分の鳥としての本能より、慈悲深い王子に応えて凍え死ぬことを選んじゃったツバメ」
「おまえはあの燕に対しても深い思い入れがあるようだな。だとしたらオレは嬉しい」
「ちょっとよくわかんないです」
ふ、と小さな笑い声が聞こえた。耳を隠したまま、私は起き上がってカルナさんを見る。
やわらかな青色の双眸が、私だけを映している。
「もしオレが王子の像ならば、おまえはオレにとってその燕であってほしいと思った」
まばゆく慈悲深い彼は、何の恥ずかしげもなく、私の心を捉える言葉を紡いだ。
「最期の時、口づけてくれる存在であれば、と」
差し伸べられた手に誘われるがまま、すっかり惚けたまま、私は、この身を彼に預けた。
――ああ、確かに、あのツバメのようなものかもしれない。
見た目からは想像もつかないほど逞しく力強い愛しいひとの腕の中で、そのひとを見上げながら思う。
きっとツバメも、今の私のような気持ちだったんだろう。
凍える冬もそれにより齎される死の恐怖も、このひとのそばに在れると想えば。
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