オレにとっては花そのものだった。長く咲き続ける花。淡い紅を載せた、花弁に似た唇。その唇が緩やかな弧を描くたびに、オレの胸は切なく甘く音を立てていくのだ。この花を愛でよう。そう誓ってからは早かったと思う。マスターにまず守りたいひとが出来たことを伝え、本人にもその旨を伝え、そして時間のあるときはなるべく共にいるようにした。

「カルナさん」

 控えめな呼び声に答える代わりに、抱き寄せる。そんな気分だった。容易くオレの腕の中に収まったは、恥ずかしげに見上げてくる。

「カルナさん……どうしたの、もう」
「今日、エミヤと楽しげに話していたな」
「ああ、うん。ほら、この間、私が二日酔いになった時、お世話になったでしょ。そのお礼をしてたら話が弾んじゃって……」

 楽しげにエミヤとの会話を振り返るの話に、のんびりと耳を傾ける。飲み過ぎないよう注意されたとか、シジミの味噌汁が美味かったとか……。悩みがあるならば溜め込まない方がいいだとか。
 を抱きかかえてベッドに腰を下ろし、オレは笑った。

「今度オレからも礼を言わねばな」
「え? どうしてカルナさんが?」

 きょとんとするに、微笑みながら返す。

「オレの大事な人が世話になった。それだけで感謝するには十分だろう?」
「……カルナさんったら」

 とんと胸を押された。その小さな仕草にすら愛おしさが込み上げる。
 普段はカルデアスタッフとして凛とし、毅然と職務に励むだが、こうして自室に戻りオレと二人きりになると、愛らしい乙女と化す。スタッフとしての凛々しい姿も好ましいが、他の誰にも見せたことがないだろうこの姿も実に素敵だ。……他の誰にも、というのは、オレの個人的な願いでもあるが。

「……
「うん?」
「今度シミュレーターに同行しないか?」
「えっ」

 驚くに、説明する。

「悩みがあるなら話して欲しい。だが話すのが難しいこともあるだろう。ならばシミュレーターで体を動かしたりしてみては違ってくるのではないだろうか。デスクワークで凝り固まったものが解せるかもしれない」

 甘くて柔らかいの髪を撫でる。労りと慈しみを込めて、優しく丁寧に。
 オレと目を合わせると、は美しく微笑んだ。

「スタッフにも運動スペースはあるから大丈夫よ。シミュレーターはマスターやサーヴァントのみんなの為のものだから」
「そうか」
「それに、こうやってカルナさんといるだけで大概のことはどうでも良くなるの」

 オレの胸に体を預けながら、が瞳を閉じる。長い睫毛がふんわりと影を落としていた。

「カルナさんを好きになって良かった。カルナさんに好きになってもらえて良かった。そう思うだけで、いっぱいになる」
「ならもう、二日酔いにもならないか?」
「それはその……別のお話というか……」

 何故かは途端に歯切れが悪くなった。オレがいれば大丈夫ならば酒の力も必要ないはず……。まさか――オレの力が足りていない? 確かにオレには至らぬところが多分にある……。

「すまない、オレが至らないばかりに……」
「か、カルナさんは悪くないの!」

 慌てふためくがオレの肩をぽんぽんと叩いた。

「その、私がお酒好きなだけで……それで飲み過ぎちゃうだけだから……ブレーキ壊れちゃうのよ……」

 ……オレはを抱き締めた。びくりとが震える。

「好きなものがあるのは良いことだが、ほどほどにな。
「うん……」
「お前の体が心配だ。なるべく酒盛りの場にはオレも同席することにしよう」

 そうすれば行き過ぎる前に止められるし、行き過ぎてもすぐに対処してやれる。酒で潰れ苦しむの姿を見るのは辛い。
 がオレを見上げてきた。花弁の唇を指先でなぞる。ふるりと揺れたそこに、導かれるように口付けた。重なった唇は熱く、柔い。ゆっくり離すと、熱を孕んだ瞳と視線が合った。

「カルナさん……すき」

 はオレの膝に跨って、キスを落としてきた。額、瞼、鼻先、頬に、また唇。くすぐったくなって、思わず笑い声が漏れた。

、そう急かすな」
「だって……」
「急かさなくともオレは逃げない」

 細いその腰に手を伸ばし撫であげる。

「逃がすつもりも、ない」

 は嬉しそうに微笑み、俺の頭を抱き締めた。

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