アンドラスはに強い興味を抱いていた。
 一目で異質と分かる、獣のような毛に覆われた長い耳、羽、尻尾。この獣化している部分に特に顕著な――実際目の当たりにしたのは一度きりだが――自己再生能力。ソロモンの戦いを見ていた際に判明したフォトンを視認する目。これもまた自己申告なので確認不足だが、常人より数倍遅い成長速度。
 ――こんなの、調べるなっていう方が無理だろう?
 の耳や尾を触診しながら、アンドラスは改めて彼女に問う。

「ねえ君、ヴィータだよね? にしては珍しい個体だ。俺に解剖させてくれないかな?」
「元通りにしてもらえるなら、どうぞです」

 間髪入れぬ返答にアンドラスは笑った。先ほどからこの調子だ。「解剖してみたい」と欲求を素直に呟くたび、「どうぞ」とは躊躇いなく答える。解剖の意味を理解していないのではとそれとなく説明もしてみたが、

「好きにしてください、元通りにしてくれるなら」

 返答は変わらない。
 好きにしていい理由は、それで助けてもらったお礼になるならば。
 元通りにしてほしい理由は、ソロモンたちが労力を惜しまずに救ってくれた命を無駄にしないため。
 アンドラスにとっては支離滅裂に聞こえるのだが、のなかでは筋の通った返答になっているらしい。血迷っているわけでもなく、知識が足りていないわけでもなく、彼女は至って大真面目にアンドラスの要望に応じようとしていた。
 それが何だかおかしくて、アンドラスは小さな笑い声をあげる。

「君は本当に変わってるなぁ……。その姿形よりも、精神構造の方が気になってくるよ」
「精神は腑分けできないと思うけれど、それでも大丈夫……?」
「ああ、ああ。当然わかってる。それも含めて解剖の話だけれど、またの機会にさせてもらおう」
「いいの?」

 きょとんとする。今の今まで本当に切り開かれるつもりでいたのだ。それに対して恐怖も抱かずに。
「解剖」の言葉を聞き、アンドラスの言動を知り、眉をひそめたり怯えたりした者は数知れない。もそんな大多数のひとりとして反応するものだとばかり思っていたアンドラスにとって、ここまで淡白なリアクションは予想になかった。偏見を抱かないといえば聞こえがいいが常識を教わらず育ったのだと考えると、少し寂しい気がした。

「解剖されることを恐れないのか?」
「だってソロモンさんの仲間なら悪い人じゃないでしょう?」

 うっすらとは微笑んでいた。
 ――ソロモンの仲間。それだけでどんな条件を出されても許容してしまうらしい。
 ソロモンのもとに集った追放メギドたちは、彼に召喚された身とはいえ一枚岩とは言い難い。ヴィータの姿となり、ソロモンの指輪なしではメギドの力を解放できないとしても。メギドの本能や思考を変えず、寧ろ肥大させている面子だっている。
 ヴィータの常識や礼節を弁えている方だと自負しているアンドラスは、少しばかり彼女が心配になってしまった。

「なあ、。俺が悪い奴だったらとっくに死んでるよ? 冗談抜きでさ」
「死んでないっていうことは、そういうこと?」
「俺は優しいからね。でも他の奴らが皆そうって訳じゃない、気を付けなよ」

 の耳から毛のサンプルを数本回収しつつアンドラスは忠告する。わかりました、と大人しく頷くが本当にわかったかどうかは知らない。
 俺はちゃんと教えてあげた、後は本人次第だ。受動的とはいえ彼女も子供ではないのだから。
 ソロモンにあれやこれやと理由をつけて定期的にの健診できるようにしたことは棚に上げて、アンドラスは改めての目を見て告げる。

「解剖の許可、改めてありがとう。でも、やるのは君が自然に死んだときに。そうじゃないと、本人が良いって言っても周りがうるさいからね」
「うん。何かに役立つと良いけれど」

 急に弱気になって声を小さくさせるの背をぽんと叩いて、アンドラスは微笑む。

「安心して。少なくとも俺の役には立つから」

 綺麗に腑分けして、部位ごと臓器ごとに丁寧に保管して並べてあげる。
 彼の励ましに、異質な少女は安心したように胸を撫で下ろした。

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