大人が二人で寝ることを想定されていないベッドの中は少しばかり窮屈だった。落ち着かないはアンドラスに抱きかかえられたままじっとしている。アンドラスもアンドラスで、じいっとを見つめたままだ。

「眠れないのかい?」

 労わるように頭や耳を撫でられながら問われ、は小さく頷く。ふうむ、とアンドラスは瞬きした。

「あれだけ動き回って疲れていないはずがないのに、不思議だね。いつもならもう寝ている時間なのに眠くない・眠れないっていうのは良くないんじゃないかなあ。どうしてだろう」
「……緊張するから」
「俺に対して緊張することないよ」

 笑いながらアンドラスはの背をぽんぽんと叩く。ヴィータが子供を寝かしつける時こんな風にするはずだった、と思い返しながら、なるべく優しく。ふわふわとした尾をくるりと巻いて、文字通り縮こまるの硬直はなかなか解けない。よほど此方に気を遣っているらしいと感じたアンドラスは、気分転換がてら話し始めた。

「前々から思ってたんだけど、君は実はヴィータじゃないんじゃないかな」
「私が……?」
「ああ。これでも俺、ヴィータには趣味が向かなかったっていうか……気にはなるんだけどね、そこまでじゃなかったんだ。けど君には興味が尽きないし、出来ることなら傷一つない状態の死体をもらって剥製にしたいって思ってる。調べさせてもらっているうちに、君の体質や特性はヴィータっていうより俺たちメギドやハルマ寄りなんじゃないかなって」

 が俯いた。彼女自身、自分が他のヴィータとは違うことは痛感していた。生体に詳しいアンドラスの言葉を受けて、その思いが強くなったのだろう。不安そうに瞳を揺らしながらぽつりと溢す。

「私はヴィータじゃないとしたら……もしメギドでもハルマでもないとしたら……何になるのかな……」
「特殊な進化を遂げたヴィータ、追放されて記憶を失ったメギド。このどちらかの可能性が高いと思うけれど、違うかもしれない。でも自分が何かなんて、そんなに気にすることは無いんじゃないかな」
「でも、自分が何でもないなら、独りぼっちになるもの」

 が寂しそうにする訳がアンドラスには分からない。以前はともかく今の彼女は決して独りではないのだ。幸か不幸かお節介だったりお人好しな面子も多い。彼女が心配するようなことは何もないはずだ。ひとりで落ち込み、そのままどこかへ沈んでいきそうな彼女の頭を撫でながら、アンドラスは言う。

「少なくとも今、君のそばには俺がいるよ。独りぼっちじゃない。俺がいなくてもソロモンたちがいる。代わる代わるアジトにはメギドがやってくる。君が独りぼっちになるほうが難しいと思うな」

 まだ不安そうなが、でも、と訴える。アンドラスは頭を撫でるのを止め、彼女を思いきり抱き締めた。異質な耳たちのせいで、人ではなく大きな動物を抱えているような感覚に陥る。の言葉をこうして強制的に中断させると、改めて耳のそばで言い聞かせた。

「独りになりたくてもなれないよ、。君の体は俺が予約してあるんだから」

 目を離した隙に傷つけられたり、死なれては困る。まだまだ生きている彼女から得たいものは沢山あるのだ。健康に生き、健康に死ねるよう、しっかりと見張らなくてはならない。の特性が彼女個人の突発的な変異なのか、遺伝性のものなのか。過去の記憶が朧げなから確かめるにはアンドラスの腕前をもってしても時間を要する。
 そもそもどうして、少しばかり外見が変わっているだけの生き物にここまで執着してしまったのか。アンドラス自身、疑問であった。
 アンドラスの説得に、意思が少しは変わったのだろうか。はぴったりとアンドラスの胸に顔を埋めた。抱きしめられても必死に突っ張っていた腕から力を抜き、すっかり身を任せている。
 不思議と悪い気はしなかった。彼女が気を許して全てを委ねてきたことを喜ばしいと感じていた。アンドラスは経験のない状況と感情に多少混乱したものの、が心地よさそうなので何も言わないことにした。そもそも抱いて感覚を確かめたいと言い出したのは自分だ。ここで離れると彼女がまた寂しがる気もする。

「死んでもひとりじゃないって、とっても贅沢だね」

 震えた声に、アンドラスは初めてが泣いていることに気付いた。泣かせるつもりはなかったのにどうしてだろう。尋ねるより先に、涙を溢しながらも彼女が笑顔を咲かせて見上げてきた。苦しいとか辛いだとかで泣いたわけではないらしい、アンドラスはほっとする。
 アンドラスにあやされながらは静かに眠りについた。長い尾を彼にそっと巻き付けて、涙の跡もそのままに。

「贅沢なのは、どっちだろうね」

 の頬を拭いながら、アンドラスはひとり笑みを零した。
(Title by まばたき)

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