最近、のルドガーを見つめる眼差しがとてつもなく生暖かい。何故だろう。何かあっただろうか。ルドガーは必死に思考を巡らせた。だが思い当たることは何もなく、仲間たちにも訊いてみたが「判らない」という。
 たっぷりの慈愛で満たされたの眼差し。ルドガーは落ち着かなかった。その眼差しには覚えがある気がして、しかしにあんな目で見つめられるのは初めてで。
 今日も今日とて彼女の視線は変わらずルドガーに注がれている。
 5分は我慢した。
 そこから更にもう5分経った。
 少なくとも10分は我慢したことになる。
 こういうときに限って他の仲間はいなくて、彼女と二人きりで。
 耐えかねたルドガーは、に訊ねた。どうしてそんなに優しい目で自分を見つめているのか、と。
 ルドガーに言われて初めて、は自分がそんな顔をしていたことに気付いたらしい。呆気にとられたように目をぱちくりさせて、「何ででしょう……」呟きながら顎に片手をあて、俯き、考え始める。
 しばらく悩んだ後、は顔を上げた。

「私、ルドガー様のことをずっと見つめていたいのだと思います」
「ど、どうしてだ?」
「何だか、ルドガー様を見つめていると、胸のなかが暖かくなるのです」

 自分で自分の胸を押さえながら、はそう話した。動揺するルドガーを見上げて、申し訳なさそうに続ける。

「だから私、ついあなたのことを見てしまうみたいで……。ごめんなさい」

 ルドガーは何も言えずに硬直している。
 それをは、ルドガーの気分を害してしまったのだと思い、何度も謝った。

「ごめんなさい、自分でもよく判らなくて……。最初は私、弟のことをルドガー様に重ねてしまったのかとも思ったんですけれど、違うみたいで……。イバルを見たり想う時とは別の暖かさがあって、私もどうしてか悩んでいて」
「わ、判ったから。もう大丈夫」
「そ、そうですか? 本当にすみません……」

 が悄気る一方、ルドガーは頬が緩みそうになるのを堪えるのに必死だった。慌てて左手で口元を覆い、万が一にやけてもに見えないようにする。

「そういう事情なら、良いんだ。俺が何か変なことしたせいとかじゃないんだったら」
「ルドガー様には寧ろ、いつもよくして頂いて感謝しています」
「こ、こちらこそいつも有難う」

 満面の笑みと感謝という不意打ちを食らい、ルドガーはあたふたしていた。手の下で完全に自分の顔が緩んだのが判る。
 とりあえず見つめられる理由が、少なくとも好意的な感情からであることが知れた。ルドガーは安堵した。しかしそれ以上に恥ずかしくて、嬉しかった。
 その気持ちを少しでも伝えようと、ルドガーはおずおずと口を開く。

「俺も、を見つめてると……胸があったかくなるよ」

 の顔が瞬く間に赤くなった。
 それを見たルドガーも、耐えきれずに赤くなる。
 互いに火照ったような顔のまま、二人はしばらく見つめあった。言葉はなく、ただただ視線を交わす。
 ルドガーは様々な衝動に駆られた。このまま彼女に触れて、もっと色んなことを語りたい。見つめるだけでは伝えられない沢山の想いを、彼女に知って欲しい――。
 それが自分の身勝手かもしれないと判りながら、そうしたくて堪らなくなった。



 ルドガーに呼ばれ、は緩く首を傾げる。「どう、なさいました?」控えめな声音。恥ずかしさで上手く声が出せていないようだ。
 を見つめたまま、ルドガーは言った。

「もう少しだけ、を見つめていても良いか?」
「は、はい」
「それで、その後にさ……」

 上擦ってしまいそうな声を必死に制して、ルドガーは笑った。

に触れても、良いかな」

 は遂に声を絞り出せなくなったようだ。耳まで赤くなりながら、小さくこくんと頷くだけ。
 それだけでもルドガーには十分に伝わった。
 照れながらもルドガーから視線を逸らさず、真っ直ぐな眼差しを注いでくれる
 しばらく無防備なの表情を眺めた後、意を決した青年は、真っ白な彼女の頬へと手を伸ばした――。

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