厳つい顔や格好の、血気盛んそうな人々の隙間を必死に潜り抜け、はなんとか仙道のバトルを観戦できる場所を探す。幸いなことに移動を繰り返すうち、ほぼ最前列へ来ることができた。
格子に張り付く勢いで、はステージを見た。
すぐ目の前に仙道の姿がある。
涼しげな笑みを湛えた横顔を見て、は、胸が高鳴るのを感じた。
「頑張って、仙道くん……!」
両手を祈るように握り締めながら、は呟いた。
が祈るまでもなく、仙道はいつものように軽やかに戦いをこなしていった。
破壊の祭典においても、“箱の中の魔術師”の強さは圧倒的であった。決して相手プレイヤーが弱いわけではない。相手だってこの大会に出場するだけの実力を身につけ、経験を積んできている。ただ彼の実力はそれを上回っていた、それだけだった。
は彼の戦いぶりを見守りながら、昨日のことを思い出した。そして一人で考え付いた。
――彼はきっと、バンとジン以外の相手に興味はない。それまでは前座やウォーミングアップのようなものなのだろう、と。
の想像通り、仙道はあっという間に準決勝まで勝ち進んだ。
そしてバンも、首狩りガトーという強敵を退けていた。二回戦目は、共倒れのために対戦相手がおらず不戦勝だったらしい。アングラビシダスではよく起きることのようだ。
アナウンスに呼ばれ、仙道とバン、二人がステージへと上がる。
彼らがDキューブを挟んで向かい合うのを見て、の心は更に高揚した。
仙道とバンの間に緊張が走る。バンを見据えて仙道は小さく笑いながら口を開く。
「逃げずによく来たな。だが、もうお前の敗北は決定している。……覚悟しろ!」
バンは答える代わりに、強い意志を持った眼差しで仙道を睨んだ。
液晶に映るレフェリーが、二人の戦闘体勢が整ったことを見ると戦闘開始の合図をした。
「バトルスタート!」
遂に準決勝が始まった。
戦闘が始まると、仙道はアキレスの様子が以前と違うことに気付いた。
「なんだ、その無様な姿は」
仙道の指摘に、もアキレスをまじまじと見つめた。
アキレスの右腕が、他のパーツとは違うカラーリングであることが判った。いや、色だけではない。パーツ自体が別の機体のものであった。
バンは仙道の言葉に対して怒ったように返す。
「形で判断するな。パーツ交換はLBXの醍醐味だ!」
「ハカイオーの腕ねぇ。弱い者同士がいくら力を合わせても無駄だ」
仙道は嘲笑うように吐き捨てると、何処からともなく一枚のタロットカードを取り出した。バンに見えるようにそのカードを返して示しながら、その図柄の意味を口にする。
「“星”の逆位置。お前の未来は、暗いと出てる――」
それを皮切りに、二人の攻防が始まった。
ゲームセンターで対した時よりもバンは冷静に見えた。しかしアキレスは、ハカイオーの右腕によってバランスを崩し、思うように動けずにいるようだった。積極的に仕掛けていくものの、重心のずれたアキレスの攻撃は、容易くジョーカーにかわされてしまう。
「それで攻撃のつもりか、山野バン!」
仙道の叫びと共に繰り出されたジョーカーの鎌を、すんでのところでアキレスは防ぐ。バランスには苦戦しているが、その代わり、ハカイオーの腕はアキレスのそれより強いパワーを備えていた。
「醍醐味とやらがアダになったようだな!」
「そんなことはない! バランスが取れないんだったら……!」
バンはそう言うと、素早くCCMを操作した。
指示を受けたアキレスは、ジョーカーの鎌を押しきって槍を振るった。ジョーカーは後ろに飛んでそれを避ける。
アキレスも距離をとることが目的の攻撃らしかった。距離が空いたのを見ると、右腕と槍を重心にして、回転し始めた。そうして生まれた勢いに乗って、ジョーカー目がけて突撃した。腕とのバランスをとるのではなく、腕の特徴をフルに生かそうとしたバンの機転だった。
銃から放たれた弾丸さながらのスピードに、は思わず叫びかけ、慌てて口許を手で覆った。
(この強さでぶつかられては!)
咄嗟にジョーカーは武器を盾がわりに構え、アキレスの攻撃を受け止めた。しかしその衝撃を殺しきれず、ジョーカーは後方へと追いやられてしまう。ジオラマの地面をえぐり、土煙を上げながら、それでも岩に背中を打ち付ける寸前でジョーカーは踏み止まった。
ジョーカーの無事を見て、はホッと胸を撫で下ろした。
「バンくん、お強いんですわね、やっぱり……。でも仙道くんもお強いですし……!」
言い様のない興奮と、どんどん勝負の行方が判らなくなってきたことが、の胸を騒がせる。はらはらしながら、はバトルを見守る。
周囲の観客もふたりのバトルを見て大いに盛り上がっていた。両者を応援する声が響き、会場を揺るがすようだった。
その熱に気圧されそうになりながらも、はめげない。
「仙道くん、頑張ってですの!」
は初めて大きな声を上げて彼を応援した。周りの喧騒に呑まれて、きっと彼の耳には届かないであろうと思いながら、それでも声を上げずにはいられなかった。我慢が出来なかった。
いつになく楽しそうに戦う仙道の姿が、の気持ちに拍車をかける。何度もは叫んだ。格子をつかみながら、目一杯に空気を吸い込んで。
「頑張って!」
私の声だと気付いて貰えなくてもいい。
ただ貴方を応援している人間がいるのだと知って貰えたらいい。
「仙道くんっ!」
何度目かの声援を送ったときだった。
僅かに仙道の顔がこちらへ――自分がいる方へと向いた気がはした。
しかしそれは本当に一瞬のことで、が驚いているうちに仙道はCCMの操作へと集中していた。
一進一退の攻防の最中、仙道が不意に口を開いた。
「さあ、思い出して貰おうか。ジョーカーの恐ろしさを!」
その声を合図にジョーカーが宙を舞う。すると瞬きのうちにジョーカーは三体に分身していた。
分身したジョーカーを見て、バンの顔が曇る。彼はゲームセンターでの対戦時、この分身を相手に一度負けかけた。そして恐らく具体的な対策を見つけられぬまま今に至っている。
仙道の勝利は近い。は思わず頬を緩めた。バンのことを応援していないわけではなかったが、やはりの気持ちは仙道に大きく傾いていた。
LBXを破壊しかねない過激なバトルへの恐怖や怯えが消えたわけではない。ただほんの少しだけ、冷静に見つめられるような気がした。
誰だって自分の大事なLBXを壊したくはないし、ずっと大切にしたいと思っている。しかし、その危険を知っていながらもバトルを止めようとはしない。誰もがいつ何者との戦いで壊れるかという、ギリギリの境界に奮えながら戦っているのだ。
LBXは小さな戦士。戦場で生き抜いていくからこそ、その強さと輝きは増す。生きるか死ぬかの駆け引きの果ての勝敗。負けたものは次こそはと、勝ったものはもう一度と、更なる戦場と勝利を目指して切磋琢磨しあうのだ。
まだろくにバトルをしたこともないでは知り得ない沢山の覚悟と感情が、そこにはある。
ならば自分は、そんな戦士たちに恥じないよう、必死に思うがままに応援することしか出来ない。いつか自分もバトルを経験し、彼らのように強い精神と覚悟ともって、本当の意味でLBXを楽しめるように……。
一方、分身攻撃によってアキレスを圧倒し始めたジョーカーは、最後のとどめに掛かろうとしていた。
「そろそろフィナーレといこうか!」
仙道の叫びと共に、ジョーカーたちは鎌を振りかざしアキレスへと飛びかかっていく。
誰もがジョーカーの勝利を確信した――しかし。
――刹那、アキレスから閃光が放たれた。
同時に強烈な電撃が生まれ、向かってきていたジョーカーたちへ逆に襲いかかる。
「なんだ!?」
驚愕した仙道が思わず声を荒げる。観戦していたや他の観客たちも騒然とした。
アキレスの機体は燃えるような発光を続け、それと同時に、操作していたバンのCCMが変形していたのだ。CCMを中心に様々な光のモニターが浮かび上がっている。
ただ不思議なことに、バンもその異変に戸惑っていた。バンが意図して発動したものではないらしく、逆に困っているように見えた。
しかし驚きはそればかりではない。
Dキューブ内の様子を改めて確認したは「あっ!」と声を上げた。
攻撃を受けて膝をついたジョーカーが、フィールド上に三体存在していたのである。分身であれば本体が攻撃を受けた瞬間、消えてしまうはずだ。
それがどういう意味が、さすがのも理解した。
仙道は、一つのCCMで三体のジョーカーを同時に操作していたのである。
「ジョーカーは癖の強い機体で有名ですのに……! 本当に仙道くんはすごいですわ!」
興奮のあまり、の声は震えていた。
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