何時ものように顔を合わせるなり険悪と化していた仙道と郷田の前に、突如現れた
 彼女は、提げているバスケットから両手いっぱいの菓子を取り出すと、二人の空気などお構いなしといった様子で笑った。

「トリックオアトリートって言って下さいな」

 そういえば彼女の服が何時ものお嬢様洋服ではなく、黒とオレンジを基調とした魔女のような衣装になっている。また友人のアミにでも何か吹き込まれたか、オタクロスあたりに入れ知恵されたのか……などと二人の番長は考えた。
 そしてその疑問を、郷田のほうは真っ直ぐ口にした。

「菓子両手に抱えていきなりどうした」
「トリックオアトリートのためです」

 ニコニコ笑顔でが繰り返した言葉に、仙道はようやく合点がいった。
 変な入れ知恵でも何でもなく、彼女は10月の行事を満喫しようとしているのだ。
 今にも取りこぼしそうな量の菓子を器用に両手で支えるを見て、確かめるように仙道は呟く。

「ハロウィンか……」
「はい! ご明察ですわ!」

 は嬉しそうに頷いた。「早く、早く言って下さいな!」お決まりの文句を求めて、今にも跳ね飛びそうな様子でが仙道を見つめる。
 期待の眼差しに、仙道は小さく笑いながら答えた。

「じゃあ遠慮なくトリックオアトリート」
「ハッピーハロウィンですわ! どうぞ、かぼちゃクッキーですわ」

 ハロウィンらしいかぼちゃやゴーストのデフォルメイラストで飾られた袋の中に、そのイラストとはまた違うデフォルメのなされたキャラクター型のクッキーが詰まっている。袋を縛るリボンにもハロウィン仕様だ。
 両手の山の半分ほどを、は仙道へ渡した。そこそこの量が有る。

「これはまた可愛い包装だな…。まあ貰っておくよ」
「あー、思い出したぜ! お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、って奴だな」

 の張り切りぶりに何とも言えない笑みを浮かべる仙道の横で、ようやく郷田が状況を理解したらしかった。「本当に鈍い奴だぜ」と毒づく仙道に郷田が食ってかかろうと振り被るより早く、は割り込むように声を張り上げた。

「はい! その通りですわ! でも私がトリックオアトリートなんて言ったら仙道くんが“じゃあイタズラしてみな”って言うのが容易に想像できてドキドキしたので、ここは年上らしくお菓子を配る側に回りましたの。バンくんたちも楽しんでくれたみたいだし、ジンくんなんか顔赤くなってかわいかったわぁ」

 仙道が絡んだ際のの想像力の豊かさや、この行動力には、時折圧倒されることが有る。今回もそうだったのか、よくあるもんだと呆れたような笑いで仙道がを見つめていた。その視線に気付いたは恥ずかしそうに身をよじっている。
 そんな中、郷田はじっと腕を組んで黙り込んでいた。
 あまりに真剣な様子で黙する郷田に、何だか不気味なものを見たかのような声で仙道が訊ねた。

「郷田、なに神妙な顔してんだ」

 仙道の言葉に、郷田は真剣な面持ちのまま答える。

の菓子は欲しいがイタズラもしてぇ。どうするべきか」
「お前もう一度地獄に叩き落としてやろうか」

 呆れも何もかも通り過ぎた残念な感情を含めて、仙道はそう返した。

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