「ふぐっ」
の体は、一つ年下の少年の腕の中にすんなり収まった。
色気もムードもへったくれもない声を上げた少女を、郷田は「お前らしいよな、ホント」と笑う。
そして、らしいと笑われたの頭の中は、クエスチョンマークに侵食されていた。
考えても判らないこの状況に、はありのままの疑問を零した。
「……どうなってるんですか?」
「言わなきゃ判らねえ状況か?」
郷田に質問を質問で返され、は戸惑いながらも答える。
「あぁ、そうじゃなくてですね……どう言うべきなんでしょ……。意味が判らないんです……。なんかぎゅっとされてるのが……」
「ぎゅっとしてみたかっただけだ」
「ますます困ります」
世間知らずの少女は暴れるということを知らなかった。
必死に縮こまり、早く郷田が飽きて離してくれることを待っている。顔色は青くもなく赤くもなく、困惑でいっぱいで。健気で、ちょっとばかりつまらなくもある反応だった。
――本当に俺のこと苦手なのかよ、こいつ。
郷田は不思議だった。だが、嫌がられて泣かれるよりはずっと良いとも思った。
「なんか良いにおいするな」
僅かにに顔を寄せるようにして、郷田は好奇に満ちた声音を零した。
突然のことに、やはりは困り、しかし彼の言葉を無下には出来ぬ様子で口を開く。
「あ、ありがとう? で良いんでしょうか……」
「柔らかいな、なんか」
「……あ、ありがとう? ございます?」
困り、何やら考えているふうにも見えるの大人しさ。
郷田はますます不思議になって、思わず彼女に確認した。
「俺のこと嫌いじゃねえのか?」
正直、自分から聞くのは出来れば避けたい疑問であった。
彼女に嫌われているとしたら、それは郷田にとってとても悲しいことだった。上手く言えないが、には自分のことを嫌って欲しくなかったのだ。自分でも理由が判らないが、その思いは確かだったのである。
そんな郷田の不安を払拭するかのように、は笑い混じりに答えた。
「最初はちょっと苦手でしたけど、今は素敵なお友達ですから」
はようやく郷田を見た。少女の透き通った碧眼に、くっきりと自分の姿が映り込んでいるのが郷田にも判った。胸の奥がきゅっと締まるような妙な感覚がして、郷田は返事をしそこなっていた。
不意にの表情が和らいだ。おかしそうにくすくすと笑い声を立て始め、微笑ましい、といった様子で郷田を見上げている。
戸惑う少年に、少女は優しく告げた。
「郷田くん、顔が真っ赤ですよ」
その指摘に彼はますます赤くなり、慌ててを解放したのだった。
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