「たまには女の子同士で遊びましょ?」

 そんなアミの提案を、は二つ返事で了承した。
 今まで友達のいなかったにとっては、女の子同士で遊ぶことも憧れのひとつだった。同性ならではの会話や趣味に花を咲かせ、盛り上がる……。夢にまで見たその光景を体験できるとあって、は舞い上がった。
 アミはの部屋に行ってみたい、と話した。の屋敷には既に行ったことがあるのだが、彼女の自室は見たことが無かったのである。これもは快諾した。

「今度アミちゃんのお家にも行かせて下さいね」
「オッケーよ」

 そんな約束を交わしながら、アミはついにの自室へと足を踏み入れた。
 流石令嬢の自室と言うべきか。天蓋付きのベッドからクローゼット、照明やテーブル、ソファーに至るまで、部屋にあるものはデザインが統一されている。

「お姫様の部屋みたいね、カワイイ! でも色がそんなに派手じゃなくて、何だか落ち着く雰囲気」
「ありがとうございます」

 目を輝かせるアミを見て、は照れ臭そうに笑っていた。

「お母様がクラシックなものとか、アンティーク調のものが大好きで、わたくしはあんまり詳しくないんだけれど……好みは似ましたの」
「へえ、羨ましい! ベッドもフカフカだし……」
「良かったら寝てみます?」
「いいの!? ありがとう!」

 答えるなりアミはスリッパを脱ぎ捨て、のベッドへ飛び込んだ。

「大きいベッドね! 寝返りいくらでも打てちゃう」

 右へ転がり、左へ転がり、アミは大きくてフカフカのベッドを堪能した。
 ベッドに比例して枕も大きい気がする。しかも枕は三つも並べてあった。こんなに枕使うの? とアミが何となく枕のひとつを抱きかかえた時……

「……なにこれ」

 異変に気付いた。
 枕に隠されて見えなかった場所に、縫いぐるみが置いてあったのだ。デフォルメされているが、紫のつんつん頭のそれは、どこかで見た誰かにそっくりな容姿をしている。
 ベッドの上で固まるアミを見て、が「ああっ!」と叫ぶ。
 ばたばたとスリッパを脱ぎ散らかしながら必死に駆けてきたは、アミの前から縫いぐるみを素早く拐い、彼女から縫いぐるみを隠すように後退した。

「見ちゃダメですわ、アミちゃん!」
「その縫いぐるみ、仙道に似てるわよね」
「見られちゃったあああ!」

 静かなアミの言葉に、は頽れた。その腕から縫いぐるみ……もとい仙道ぐるみがぽろりと落ち、ぽすんと緩い音を立ててカーペットに着地する。
 アミは枕を手離し、ベッドから降りると、スリッパを履き直してに歩み寄った。

「わざわざ作ったの? 仙道の縫いぐるみ」
「……はい」
「ちょっと見せて」

 アミは仙道ぐるみを手に取った。
 二頭身ほどのちびキャラと化したそれは、上手にモデルの特徴を捉えている。ちょっとムカつくような笑い方や、衣装に至るまで、のただならぬ拘りを感じ取ることが出来た。
 の手に仙道ぐるみを返してやると、アミは優しく微笑んだ。

「大丈夫。内緒にしておくから」
「ほ、ほんとう?」
「本当に本当よ。女の子同士の約束」

 そう言うと、ようやくは安心したように顔をあげた。両腕でしっかりと仙道ぐるみを抱き締め、嬉しそうに笑ってみせる。
 は仙道ぐるみをベッドに戻すと、改めてアミを顧みた。

「お茶とお菓子の用意しますわね!」
「やった!」

 が淹れる紅茶と、が作ったと言うクッキーを摘まみながら、ふたりだけのお茶会が始まる。
 柔らかなソファーに揃って座り、普段はLBXに明け暮れる少女たちも、年頃の乙女らしい会話を交わした。

「アミちゃんは好きな人いないの? バンくんやカズヤくんも素敵ですし」
「あの二人はそういう感じじゃないし……今のところ、私は恋愛よりLBXね」
「なるほど……」
はLBXっていうより恋愛?」
「いえ、その……LBXあってこその恋愛と言いますか」
「そっか、きっかけがLBXなんだものね」

 くすくすと笑うアミに、すっかりはたじたじだ。
 この場にはいない男子のこと、アミの通う中学校のこと、の会社のこと……。話題は次々に移り変わり、結局最後にはLBXのことになってしまう。
 部屋のなかでひとつだけ他のものとは違うデザインの机があることにアミが気付いたのが始まりだった。

「あそこでLBXを?」
「ええ。あの机でLBXのカスタマイズやメンテナンスをしてますの。ぐちゃぐちゃで片付いてませんが……」

 机の上にはドライバーやヤスリなどの道具と一緒に、LBXのパーツがいくつか置いてある。パテ盛りか何かの作業の途中なのだろう。他にも塗装用のペンやスプレーと、なりに考えて揃えているようだ。

、頑張ってるのね」

 作業机を眺めるアミの眼差しは暖かい。

「アミちゃんたちに追い付こうと、がむしゃらでして……。そう言って貰えると有難いですわ」

 気恥ずかしそうには返す。よく見ると彼女の指には絆創膏が貼ってある。それを見てアミは笑った。

「私も慣れないうちはよく指とか切っちゃったなぁ。結構痛いわよね」
「鋭いですわよね、パーツも道具も色々……」
「そうそう! 後はカラーが指や爪についちゃったり」

 話が弾み、紅茶と菓子も美味しく平らげた頃には、すっかり日が暮れていた。

「アミちゃん、お家までお送りしますわ。ヤマブキさんに車を出して貰いますから」
「わざわざありがと、
「こちらこそ今日は付き合って下さって有り難うございました」

 もついて来ようとしたが、アミはそれを断った。
 屋敷の玄関で挨拶を済ませると、アミはヤマブキが用意してくれた車に乗り込んだ。
 車が発進してから見えなくなるまで、はアミを送る車に向かって手を振り続けていた……。

のご両親って、あまり家にいないんですか?」

 家を目指す車のなかで、アミはふと、運転席のヤマブキに訊ねた。
 が付き添おうとしたのを断ったのは、この質問をするためだったらしい。
 ヤマブキは静かに答える。

「はい。日夜研究に追われ、滅多にお戻りになられません。口にこそしませんが、お嬢様は寂しい想いをなさってらっしゃるでしょう」
「私たちと遊んで少しでも気が紛れてたら良いんですけど」
「アミさんたちのお陰で、お嬢様は明るくなられました」

 アミの思いやりに、執事は深く微笑んだ。

「どうかこれからも、お嬢様と遊んで頂けますか。お嬢様にはアミさんたちのようなご友人が必要なのです」

 執事の言葉に「もちろんです」と少女は笑って頷く。
 次に来るときは、またバンたちも誘って来よう。がもっともっと楽しめるように!
 アミはそう心に決めたのだった。

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