※ダイキ×夢主←キヨカなお話です
ずっとお兄ちゃんが羨ましかった。
お姉ちゃんと沢山の時間を重ねられるから。
お姉ちゃんの全てがお兄ちゃんに捧げられているから。
お姉ちゃんの愛情のすべてが、お兄ちゃんに注がれていることが羨ましかった。
お姉ちゃんは日増しに綺麗な大人の女性になっていく。お兄ちゃんが密かに「悪い虫がつくんじゃないか」と心配しているのを、お姉ちゃんはきっと知らない。
お兄ちゃんも、お姉ちゃんのことが大事で大好きだ。お姉ちゃんを心の底から愛している。絵に描いたような相思相愛。お兄ちゃんがお姉ちゃんの話を初めてした時、すぐに気付いた。お兄ちゃんもお姉ちゃんのことを好きなんだって、すぐに判った。だって私たちは、兄妹だもの。
私たちを見て、お姉ちゃんは何度も「そっくりな兄妹ですわね」と笑ってくれた。お姉ちゃんにそう言われると、私は曖昧に笑って返すことしかできなかった。他の人に同じことを言われたなら、もう少し違った反応を返せたかもしれない。……だって、好きな人まで一緒になるほどそっくりな兄妹だとは思いもしなかったの。
お姉ちゃんは、私のことを本当の妹のように可愛がってくれる。嬉しいけど、私が本当に見たいお姉ちゃんの姿は、それだけじゃあ見ることができない。
きっと生涯、それは変わらない。
変えられない――。
「にプレゼントをやろうと思うんだが……何をやれば良いんだか全く見当がつかない」
頬杖をついて溜め息を溢すお兄ちゃんを見て、私は苦笑した。
「お兄ちゃん、毎回同じこと言ってる」
「仕方ないだろ。苦手なんだよ、こういうことは……」
「だからって何もしない訳にはいかないものね」
私だったら迷わない。お姉ちゃんの好きなものを、お姉ちゃんの好きな言葉と一緒にあげるの。
お兄ちゃんも、実際は何をプレゼントしようか思い付いているはず。お兄ちゃんが本当に“見当がつかない”ことは、どんな風にお姉ちゃんに伝えて、どんな風にプレゼントを渡すか……。そこなんだと思う。
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんのことが大好きなんだから。素直にお兄ちゃんがプレゼントしたいものをプレゼントしたら大丈夫だと思うけど」
「お前の返しも毎回同じだな……」
今度はお兄ちゃんが苦笑する番だった。
「まあ、妹にぼやかないと行動出来ない俺が情けないだけか」
「じゃあ早速行動よ、お兄ちゃん。あと10分もしたら、お姉ちゃん来るからね」
「は!? キヨカ、お前……!」
涼しい顔をしていたお兄ちゃんが血相を変える。一杯食わされた、と言わんばかりに。
それがおかしくって、私は笑いを堪えることが出来なかった。
「連絡しておいたの。“今日はお兄ちゃんが暇をもて余してるから一緒に出掛けてあげて”って」
兄への細やかな嫌がらせかつ、二人への私なりの計らいだった。
「どうせならデートの最中にプレゼントしたら良いでしょ?」
「……そうするよ」
ゆっくりとお兄ちゃんは席を立った。出掛けるための準備に行ったのだろう。
私はCCMを取り出した。さっきお姉ちゃんから来たばかりのメールを読み返すために。
『お言葉に甘えさせて頂きますわ。ちょうど近くを散歩してましたから、10分もしないで着くと思います。キヨカちゃんも良かったら一緒に来ませんか?』
私の頭のなかで、その文面は優しいお姉ちゃんの声で再生された。
穏やかに微笑み、小首を傾げるような仕草で私を見つめるお姉ちゃんの姿が浮かんで、ひっそりと胸が高鳴る。
お姉ちゃんの優しさに、私はこう返した。
『滅多に無いデートの時間に水を差しちゃうようで申し訳ないから、大丈夫よ。気を遣ってくれてありがとう。お姉ちゃん』
だって、出掛けるなら、お姉ちゃんと二人きりが良いんだもの。お兄ちゃんがいたら、お姉ちゃんの笑顔も温もりも、とびきりの全てがお兄ちゃんに持っていかれてしまうんだもの。
だからと言って、決してお姉ちゃんは私を爪弾いたりしない。私も含めて、暖かなものを注いでくれる。
――だからこそ辛い。
お兄ちゃんと私では享受することができるものの“差”をまざまざと見せ付けられてしまうから。お姉ちゃんの向けてくれる情の違いを否が応でも思い知らされるから。
イレギュラーな私が、いけないのだけれど。
「ったく、してやられたねぇ」
準備を終えたお兄ちゃんが戻ってきた。上着をはおり、お姉ちゃんがくれたマフラーを巻いて。
私はくすくすと笑った。
「伊達にお兄ちゃんの妹してないからね」
その時、ちょうど玄関のチャイムがなった。若干急ぎ足で玄関に向かうお兄ちゃんの後を、やや遅れて私は追い掛ける。
お兄ちゃんはやっぱり少し慌て気味なまま、玄関のドアを開いた。
「こんにちは」
ふわりと微笑むお姉ちゃんが、そこに立っていた。何時もよりシックな色合いのトレンチコート、お兄ちゃんと色違いのマフラー。コートの下から覗く柔らかなスカートの裾はふわふわと風を取り込んで揺れている。
お姉ちゃんは私たちを見て、笑みを深くさせた。
「ダイキくん、キヨカちゃん。お二人とも元気そうで何よりですわ」
「お姉ちゃんこそ、会社のこと大変でしょう?」
思わず私はお兄ちゃんより先に口を開いた。
「この頃、連日のようにニュースにも出てるし。体、大丈夫? ちゃんと休めてる?」
「お気遣い痛み入りますわ。でもご覧の通りピンピンしてますの! 遊びに来るぐらいですしね」
寧ろこうして気分転換しなくてはもちませんわ。
そう言って笑うお姉ちゃんを見ていると、私も自然と笑顔になる。
お兄ちゃんも頬を緩ませて、お姉ちゃんを見つめていた。お姉ちゃんの頭を、親が子供を褒めるみたいに優しく撫でながら。
「じゃあ今日はうんとリフレッシュしなくちゃだな」
「ダイキくんさえ宜しければですけど」
「駄目ならそう言ってるさ」
お兄ちゃんは可笑しそうに笑い声をあげる。
「万が一にも、あんたの誘いを断りゃしない」
その言葉にお姉ちゃんの笑みは深くなり、いっぱいに幸せを滲ませていった。
お姉ちゃんが幸せならそれで良いと思う反面、どうしても私はお兄ちゃんを羨んでしまう。ああ、本当にお兄ちゃんには敵わないなあ。お姉ちゃんにこんな顔させられるのは、後にも先にもお兄ちゃんだけなんだろうなあ。
綺麗なきれいな、大好きなだいすきな、お姉ちゃん。
私がお姉ちゃんの笑顔の美しさに惚けているうちに、お兄ちゃんは靴を履き、お姉ちゃんの手を取っていた。
お姫様のように華奢で細いお姉ちゃんの指。そのひとつひとつを眺める。爪は淡いピンクのマニキュアに彩られてつやつやで、綺麗に切り揃えられて整えてあって……。
「じゃあ留守番頼んだぜ、キヨカ」
「え? ああ、うん。判ってる」
お兄ちゃんの声に慌てて我に返る。
「大丈夫? キヨカちゃん」
「平気よ。……ふたりがお似合いだなって思ってただけ」
お姉ちゃんの呼び掛けに、私は笑いながら返した。
はにかみながら視線を交わすお兄ちゃんたちの仲の睦まじさに、私だけは表情に反して胸を痛める。
うっすら赤い顔のまま、お姉ちゃんは笑う。
「お土産買ってきますからね! 行ってきますわ、キヨカちゃん」
「うん。行ってらっしゃい」
お兄ちゃんに手を引かれながら、お姉ちゃんは出ていった。
バタンと音を立てながら玄関のドアが閉まり、私だけが残された空間には冷たいぐらいの静けさが満ちていく。
喉が塞がれそうなぐらい、それは重たい。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……大好きなのよ……私だって」
どろどろとしたものが胸の奥でのたうち回っている。間違いない、嫉妬心だ。実の兄に、私は嫉妬しているのだ。恥ずかしくて、悲しくて、苦しくて、たまらない。自覚しないようにすればするほど歪んで膨らんでいくから、今となっては、大人しくそれを受け入れることにした。
一人きりじゃ気を紛れさせようにも限度がある。ああ、お姉ちゃんへの気持ちでおかしくなりそう。お兄ちゃんとお姉ちゃん、今頃お話ししながら歩いてるんだろうなあ。何時もみたいに手を繋いで。指を絡めて。
それ以上を想像するのは止めて、私はとぼとぼと自分の部屋に向かった。
ベッドの上に体とCCMを投げ出して、両手で顔を覆う。
お姉ちゃん……私のことも好きだって言ってくれてるんだから……十分に幸せなはずよ? 私、どうしたの? 今日は何かの居所が悪いみたいで、なかなか靄が晴れてくれない。
――この想いを自覚してから、心が本当に晴れていたことなんてあった?
「お姉ちゃんが楽しいなら……それで、良いの。それが、一番なの」
自分自身に言い聞かせるように、私は呟く。
CCMの画面は、お姉ちゃんからのメールを開いたままで点灯していた。
これ以上なにも考えなくて良いよう、CCMの電源を落とす。
そうして静かに瞳を閉じる。
私の大好きなふたりが一緒にいて幸せなら、素晴らしいことじゃない。大好きなふたりが私を爪弾くことは、決してないのだから。私がお兄ちゃんとお姉ちゃんの“妹”である限り、その温情は約束されているのだから。
何度も何度も二人を祝福しているうちに、私の意識は暗い微睡みへと浸っていった。
夢のなかでくらい、お姉ちゃんを独り占めできたら良いのになあ。
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