※夢主の仙道くんファン・追っかけ魂がオーバーヒート
※夢主がいつも以上にお馬鹿です



 いつも何度もほぼ毎日飽きることなく、は俺のもとに現れる。「大ファンですの!」だの「仙道くん万歳です!」だのとはしゃぎながら。アイツは色々と抑えてるつもりかもしれないが、周りには“あぁこいつ仙道の追っかけだ”とバレバレだ。
 そして今日もまた、全身全霊の満面の笑みでは俺の前に現れた。
 ……ママチャリで。

。どうした、それ」
「チャリで来ました」
「いや、俺が聞きたいのはそういうことじゃねぇよ」

 は自転車から降り、のんびり手で押しながら語り始めた。

「実はわたくし、普段はミソラタウンに通うために電車を利用していますの。けれど、電車賃を削ったらもっとLBXマガジンやパーツにお金を注ぎ込めるのではと思い、チャリで仙道くんの応援に駆け付けることに致しましたの!」
「なるほどね、確かに金が浮くね」
「でしょう!? パーツ以外にもファンとしては色々とグッズを作成したりもしますので、節約してナンボなのですわ」

 だからって令嬢がママチャリ引っ張ってくるのかよ。セキュリティとか何かこう、色々とどうなってんだ。あとグッズ作るって何だ。というか……あの執事も何でゴーサイン出したんだよ! こんな馬鹿を野放しかよ、本当にエセ執事だな!
 こんな俺のモヤモヤもあの執事の計算のうちに入っているのかも知れないと思うと、ますます苛立ってくる。

「お荷物、良かったらこのママチャリのカゴにお入れくださいな」
「タロットとLBXとCCMぐらいしか無えから要らねえよ」
「そうですか……」

 なんでそんなに残念がるんだ……。

「ったく、仕方ないねぇ」

 俺は適当な店の前にあったLBXパーツのガシャポンを回した。とりあえず一回。特に欲しいシリーズのものでも無かったから、中身も確認しないで自転車のカゴに入れてやった。
 それを見てが目を丸める。

「まあ、仙道くん……」
「これで良いか?」
「お財布もお持ちでしたのね!」
「確かに持ってたがそうじゃねぇ!」

 的外れなに素早く返す。するとは「まさか!」とまた目を丸めて俺の顔を見た。

「わざわざカゴに入れる荷物を作って下さいましたの!? と言いますか中身は確かめませんの!?」
「要らねえから、あんたにやるよ」
「まあ……有難うございます! 仙道くんたら格好いいだけでなく優しすぎですわ惚れ直しますわ」

 さらりと恥ずかしいことをばんばん言って、は嬉しそうにガシャポンを掴んで、肩から提げているポーチにしまった。
 ……俺は思った。

「そのポーチをカゴに入れときゃ良いんじゃないか……?」
「あっ! うっかりしてましたわ!」

 言い様の無い、余計な疲労感が生まれた……。
 カゴにポーチを入れた自転車を手押しすると共に、ミソラ商店街にやって来た。その道中、はしきりに俺が通う中学について質問してきた。これも度々あることだ。流石に慣れてきた。学校に通っていないコイツにとっては、学校そのものが憧れの場所らしい。

「ソフト麺とか食べてみたいですわ」
「いつの時代の話だよ」
「えっと、じゃあ……わたくし、会社で作った教材を持って学校訪問したいですわ」
「頼むからウチの学校には来ないでくれ」
「えー……。残念です……」

 学校にが出現する状況を、頭のなかで容易くシミュレーションできた。
 何か見慣れねぇ教員がいると思ったらで、人目も憚らずに満面の笑みで此方に寄ってくるその様を。
 ただでさえ最近「ミソラ一中の番長が女連れ回してる」だの言われてるなか、学校にいてもが引っ付いてきて「仙道くん」連呼してふやふや笑うのが、嫌でも想像ついた。
 しばらく商店街をふらついてから、いつも寄るゲームショップに入る。はしっかり駐輪場に自転車を止め、施錠してからポーチを提げ直してついてきた。

「今日も人がいっぱいですわ~」
「あっちこっち見渡すのもいいが足元気を付けろよ」
「はい、大丈夫ですわ!」

 ちょっとばかしLBXバトルがしたいところだが、相手をどうするか……。そう思案しているときだった。

「おお、仙道じゃねえか」

 見覚えある緑頭の男……郷田が近付いてきた。郷田がいるなら他の店に行きゃあよかった。いつぞや従えてた子分も一緒にいる。

「折角だしバトルしようぜ。もいるならタッグバトルにすっか」
「馴れ馴れしいな」
「良いじゃねえか、たまには。よっしゃギンジ、手伝え!」

 呼ばれた鹿野ギンジが、LBXを取り出す。にしても酷く顔色の悪い痩せこけた奴だ。
 すっかり郷田たちがやる気になってるのを見て、俺は溜め息を吐く。
 もまたLBXを取り出していたが、不安そうに此方を見ている。

「わたくしが役に立たなかったら盾にでもしてくださいね……」
「あんたは援護に集中してくれりゃ良いよ」
「が、頑張りますわ! なんならわたくし、秘密兵器もありますので!」

 秘密兵器が何かは確かめる間もなくバトルがスタートした。
 相変わらずガサツで猪突猛進な戦い方の郷田のLBXが、真っ直ぐ此方に向かってくる。俺はもちろんひらりと回避。「ちょこまかしやがって!」と郷田が叫ぶ。

「棒立ちで当たる馬鹿がいるかよ」

 嘆息しつつ俺はナイトメアを操る。
 で、鹿野を射撃で足止めしていた。近接武器より銃の方がコイツには向いてるらしい。なかなかの動きと狙いだ。

「うふふふ……スイッチ入りそうですわー!」

 バトル前の不安げなあの姿はどこに行ったのか。急に笑いながら、はポーチから何かを取り出した。

「秘密兵器! 棒つきキャンディーです!!」

 ……飴かよ! それの何処が秘密兵器だってんだよ!
 呆然とする俺と鹿野を他所に、の手にする飴を見て郷田が「何っ!?」と叫ぶ。

「まさかその飴で俺らを懐柔するつもりか!?」
「いや、多分違うぜ郷田くん……」
「生粋の馬鹿だな郷田」
「ギンジは良いが仙道、人のことをあんまり馬鹿呼ばわりするもんじゃねぇぜ!」
「お前に言われてもなぁ……」

 馬鹿なやりとりをしているうちにはキャンディーを銜え、「準備完了ですわ!」と意気込んでいた。その瞳が青く輝くのを見て、俺はの話していた“秘密兵器”の意味をようやく理解した。
 は変わった能力があった。何と言えば良いのか、脳のリミッターを外しているんじゃないかというレベルまで集中力を高めることができる。その間、LBXの操作テクニックは別人のように向上し、普段の倍以上の力を発揮する。ただ相当疲れる能力らしく、この極限の集中力を発揮した後は馬鹿みたいに甘いものを欲する。
 たまに本人も予期せぬ時に発揮されるらしいこの能力への対策に、俺は、と行動する際は無茶苦茶甘い飴を常備する癖がついていた。
 キャンディーを銜えたまま、が叫ぶ。

「ちょっとお行儀悪いですけどガンガン行かせてもらいますわ!」

 武器をハルバードに持ち変えたのLBXが、鹿野のLBXに猛攻をしかける。
「リーダーの足引っ張るなよギンジ!」郷田の取り巻きの中でも一番ちっちゃい奴が叫んだ。
 それを聞いたは不敵に笑う。

「ふっふっふ、リコちゃん……。今の私はスーパーモード、普段のとんちんかんな私とは一味違いましてよー!!」
「きゃ、キャラ変わってねえか、
「たまにはわたくしも暴れたいのですわ、郷田くん!」

 言いながらは左手をびっと翳した。その手には一枚のタロットカード。アルカナは“皇帝”の正位置だ。
 ……っておい待て。今のカードの出し方、丸っきり俺と同じだったぞ!?

「時には積極的かつ大胆に攻めるべき……。そうタロットが告げていますのよ」

 得意気なに、思わず俺は訊ねた。

「あんた……。いつの間にそんな技習得したんだ」
「いつも仙道くんを観察し、仙道くんに許可をいただいて撮影した動画を何度も見返し、あとネット検索で試行錯誤して、何とかマスターしましたわ」
「何だと……」
「まだこの出し方しかできませんし、アルカナの意味をたまに間違えちゃいますけどね」

 俺が言うのも何だが、よりによってそんな技術磨いてどうする。LBXの練習しろよ。した上で技術を身につけるにしても、他に何か別のもんあったろ。
 ぽつりと「恐るべしファン魂だ……」と鹿野が呟く。恐ろしいだけじゃねえ、こっちは無茶苦茶恥ずかしい。
 そんなただならぬの様子に、対する鹿野も何か察したようだ。奴の操るマッドドッグが、光学迷彩機能を発動した。
 突如姿を消したマッドドッグに、のヴァルキリーが動きを止める。
 加勢してやるべきか? いや、郷田を振り切るのは無理だ。に踏ん張って貰うしかない。
 それに、今のの状態なら勝機があるはずだ。

「――そこっ!」

 普段なら気付けないような、迷彩が風景に同化するための間の僅かなラグをは捉えた。ハルバードの一突きが、ヴァルキリーの背後に回ろうとしたマッドドッグに直撃し、迷彩が解除される。もろに入ったらしいそれが決定打となり、マッドドッグはブレイクオーバーした。
 の奴、ズブの素人から随分と成長したもんだ。思わず笑みが溢れる。

「やるねぇ」
「お褒めに預かり光栄ですわ、仙道くん!」
「さて、こっちもフィナーレと行くか……!!」

 が決めといて俺が決まらねえってのも格好がつかない。

「行くぜ、郷田!」
「二人まとめて来やがれってんだ!」
「じゃあお言葉に甘えますわ!」

 俺のナイトメアと、のヴァルキリーが並走する。ナイトメアのスピードについてこれるとは、大したもんだ。
 なかなかしたことのない連携プレーだったが、見事に決まる。
 郷田のハカイオー絶斗は、ナイトメアとヴァルキリーの攻撃に耐えきれずブレイクオーバーした。

「くっそー! 負けた……」
「俺はともかく、の力量を見誤ったな」
「ああ、がこんなに強いとは――」

 郷田が言いかけた時、集中力の切れたが声もなく頽れた。
!?」郷田たちが騒ぐのも無理は無い。これには俺も慣れるまで結構掛かった。
 屈んでの手を取り、支えながら立ち上がらせてやる。「有難う、仙道くん」力無い声でそう返し、は、キャンディーの棒をゴミ箱に捨てに行った。まだ頭が眩むのか、額を押さえている。

「まだまだですわね、私も」
「これでも食っとけ」
「むぐっ」

 ぼやきながら戻ってきたの口に、飴玉をひとつ押し込んでやった。口をもごもごさせながら、は飴玉の甘みに頬を緩める。

「おいひー飴さんですわぁ」
「ちょっとは調子もマシになるだろ」
「何から何まで感謝ですわ、仙道くん!」

 の頬が赤い。「仙道くんの指が口にくっついちゃいましたわ……」何かぼやいているのは聞き流しておく。
 そんな俺たちのやり取りを、郷田たちはやけにムカつくニヤニヤ顔で眺めていやがった。

「お熱いねぇ、お二人さんよぉ」
「はん、男の僻みは見苦しいねぇ」
「ひ、僻んでねーよ! はお前に夢中過ぎてとりつく島も無えしな……!!」
「リーダー……どんまい」

 にやけ顔から悔しそうな顔に変わった上、ちっちゃい舎弟にフォローされる郷田の姿はなかなか面白かった。の面白さには負けるが。

「本当に感謝にございますわ、仙道くん」
「気にするな。俺もあんたといるのは気楽で良いんだ」
「まあ、調子に乗りますわよ私!!」
「そうかい。程々にしときなよ」

 真っ直ぐ過ぎてツッコミどころ満載のの額を軽く小突いて、俺は笑った。 明日もきっとこんな調子で、賑やかしいこいつと過ごす羽目になるだろう。
 勿論、望むところだ。
 すっかり絆された気がしないでもないが、俺もと過ごす時間がいつも楽しみでならない。

「さて、次はどうする?」
「キタジマに行きましょー!」
「チャリ忘れんなよ」
「わわ、危なかったですわ」

 こんな危なっかしい奴、ひとりで歩かせるわけにも行かないしな。

Top