火球が間近で炸裂し、熱風がの体を弾き飛ばした。寸でのところで作り出した水属性術障壁で火炎を相殺していなければ、体を地面に叩きつけるだけでは済まなかっただろう。それなりに痛いことは変わらないにしても。
 戦術の幅を広げるために、は飛び切り丈夫な自分の体に無理を強いていた。力任せな特攻を補うために、なるべく敵にも予想外かつ効果的な防御術を導き出す。自身の能力から結論付けたそれは無謀同然だったが、この面子にとって無茶は日常のようなものだ。今まで以上に計算を積み重ねた甲斐もあり、一発目の“防御”も比較的上手くいった。

「瞬発力も安定性もまずまず、後は欲を言えばもっと範囲を広げたいな……。壁自体に厚みを持たせるのもアリだけど、展開数を増やせればダウン時の衝撃にも対応できるよね。武醒魔導器へコード化させた障壁術式を送信して、組み込む展開条件は……対象者含む周囲のエアル波長の乱れでとかがいいかな? でも魔導器ありきだとジュディスには……やっぱりリンク専用の魔導器を作るべきか。核がひとつあれば後は筐体で調整していけるはず……」

 ……無事に戦闘を終え、仲間の指摘を受けるより先に怪我を治して無かったことにしたは、すっかり考え事に耽っていた。
 難しい顔でぶつぶつと呟き続ける彼女を見て、カロルは心配そうに眉尻を下げる。

がなんかリタみたいになってる……。ほっといていいのかな」
「どこがあたしみたいなの。一般人が背伸びして頭悩ませてるだけでしょ」
「いや、それはリタにとっては誰でもそうかもしれないけれど、難しい事考えてる感じの顔してるし」

 ああでもない、こうでもない、と考え込むへ、「!」とエステルが駆け寄っていった。花色の乙女の表情ににじむ動揺・心配は、間違いなく無茶を押し通したに向けられたもの。

、どこか痛くはありません? 怪我は? 大丈夫です? それにさっきの戦い方、見ていてとってもハラハラしました……」
「エステル……。ごめんね、ありがとう。大丈夫だよ。ちょっと、自分なりに新しい力の使い方を考えてたんだ」

 エステルの心遣いに、杞憂だと言わんばかりにぐるぐる腕を振り回して元気ぶりを主張する

「エステルのように澄んだ防御術が使えたらいいんだけれどねぇ、生まれと育ちの影響かなあ。私のはおおざっぱでダメだね。人様に向けられるようなレベルじゃない」
、今のままでもじゅうぶんすごいです。どうしてそんなに悩んで……?」
「えーっと……それは……」

 途端にの声は小さくなった。怪我や疲労のせいではない。じっとエステルを見つめたまま、じわじわと頬を赤く染め、それから……急に狼へと転じた。目の前で急に変身されたことにエステルも仲間も大いに驚いた。
 狼少女――もとい、少女狼は、両前足に顔をうつぶせにし、もごもごと呟く。

「……負担を……削りたくて……」
「え?」

 うまく聞き取れなかったエステルが聞き直すと、ワウ、と小さな鳴き声の後に、

「エステルの負担を削るために、私も、防御補助の術を磨きたいの~……!!」

 と、狼は言ったのだった。
 ……エステルは瞬きし、無言の仲間たちの視線は自然と、渦中のエステルらへ注がれる。
 狼は視線に耐えられず、伏せたまま様々口走る。「エステルの術はすごい」「けどその負担も結構バカにならないし」「だからって補助なしじゃ辛い時もあるし」「完璧に肩代わりは出来なくてもちょっと負担無くすぐらいに」「私も曲がりなりにも変わった力があるには役立てなきゃ」それはもう、ひどく饒舌に。
 エステルはぽかんとしたまま狼を見つめていたが、その眼差しが次第に爛々と輝き、頬も比例して緩んでいくのが仲間たちにはわかった。

「ワゥ……そういうわけなんだよぉ……」
……」
「……う?」

 エステルに呼ばれて恐る恐る顔を上げた狼は面食らった。
 満面の笑みで、キラキラの眼差しで、自分を見つめてくるエステルが間近にいたからだ。

「わふ、とか、わう、とか、可愛いです!! 大きなぬいぐるみみたいです!!」
「わ、わわわ……!? え、ど、どしたの……」
「それに、わたしのために頑張ってくれるのは嬉しいですけど、だからってが無理しちゃダメなんです!!」

 エステルはに抱き着いた。大きなおおきな狼の首に腕を回し、ぽふぽふと頭を撫でてやりながら、皇女は伝える。

「わたしも同じくらいに無茶させたくないって思ってるんですから。お仕置きでぎゅうっとしますよ?」
「もう、されてるけど……」

 が返すと、エステルは「あ、そ、そうでした」動揺しつつも、気を取り直して、

「もっともーっと、ぎゅーってするってことです。が動けなくなるぐらい」
「も、もっと?」
「意識落とすぐらいぎゅうっとあたしがしてやろうか」
「リタ、冗談に聞こえない」

 見かねて意地悪い笑みを浮かべたリタが入れば、些か落ち着きを取り戻した狼は素早く応じた。
 エステルが狼の毛並みに埋もれているのは、仲間への注意からそのもふっとした感覚を味わいたいがためだけになりつつあるのは、恐らくとエステル自身以外みな気付いている。
 すっかり解れた緊張、和やかな空気に、次々に仲間らは語りだす。

「よーし、じゃあ、うちもが無茶したらキュッとしてやるのじゃ」
「パティ、それ、締めるの意味が変わってない……?」
「ああ、息の根の方に聞こえるな」
「じゃあ私が、むぎゅうっとしてあげるのはどうかしら」
「ジュ、ジュディスちゃんのむぎゅう……。おっさんも狼に変身したい……」
「レイヴンさん……」

 冗談交じりに、一部は本気に。
 何はともあれ、誰もが無理をしてはいけない・傷ついてはいけないという決まりが彼らには宿っている。
 その温かくも確かな縛りは、ほのかな約束の紐は、無茶に無謀にと走りつつあったを引き留めたのは確かだった。

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