「最近、がアンタの空間歪曲の術に興味津々なんだよ」
チップにそう明かされ、ファウストはふむと顎に手を当てた。
というのは、チップとアンサーが拾った少女――この表現は正しくないのかもしれないが――のことである。少々特殊な体質と記憶喪失の彼女を一度診てくれないかとチップに頼まれて以来、ファウストはたびたびこの地に赴いている。そのが、法力の「ほ」の字も知らなかった少女が、よりにもよって自分の転移術に興味を持った。
ファウストとチップは唸った。
「さんの好奇心だと、教えて欲しいと言いかねませんねぇ」
「だろ? けどこないだまで法力を知らなかった人間が触れるにゃ高度過ぎる」
「つまり心配なさっている」
チップが素直に頷く。保護した責任からかそれ以外か、チップは、が無謀な法術に手を伸ばして危うい目に遭うことを避けようとしていた。
「縮地もできねぇ奴に瞬間移動、ましてや空間転移なんて無謀だろ。どこか行きたいなら俺なりアンサーなりが背負ってやりゃ済む話だ。あいつは軽い」
背負うということは常に一緒にいるということだ。傍で守ってやるということ。
随分と甘やかすものだと思っていたが、ファウストはそのまま口にはしなかった。危なっかしくて目が離せないという意味なら、大いに分かったからだ。
それでも一応遠回しに伝えようとファウスト。
「いつまでも背負って移動する訳にはいかないでしょう。だからと言って私の術をお伝えするわけにもいきませんが」
「そこで先生にお願いしたいのです」
緑茶を持ってアンサーがやって来た。
ファウストとチップの前に茶を置くと、彼も話し合いの席につく。
「があなたの空間歪曲の術を教えて欲しいとねだってきたら、適当にあしらってはくれませんか」
「諦めさせろと?」
「はい。万が一滞りなくが術を覚えて彼方此方に飛ばれても困りますので」
溜息を吐きながらアンサーは呟いた。チップと違い、が成功した場合の懸念を口にする。
「あいつは、自分の身ひとつさえまだ守れないのです。移動方法より防衛術から覚えてもらわなければ……」
「何だか子育てみたいですねぇ」
「ご冗談を。……と言いたいところですが、現実、そんなところですね」
面倒くさそうな口ぶりのわりに声音は決して暗くないところが微笑ましい。
紙袋の下で微笑みながらファウストは頷いた。
「分かりました。さんが私にそう聞いてくることがあれば、すっぱり諦めさせましょう」
「頼むぜ」
「よろしくお願いします」
――そうして、に対する「こうして、こう」作戦は行われたのであった。
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